「国民が幸福になるか否か」を唯一の判断基準に

 最後に、「政策立案者や行政担当者」「ジャーナリストや野党」「企業経営者」に求めることを整理してまとめたい。

 政策立案者、行政担当者は、局所的短期的視点ではなく、包括的中長期的視点で、政策決定&遂行に臨んでほしい。もちろん、社会的弱者の視点で。もし自分がその立場に立った時どう感ずるのかという自分事化して物事を考えていただきたい。国民の代表または公僕として、「この政策で国民は幸福になるか」どうかを常に考え続けてほしい。

 ジャーナリストや野党も、いい加減に「坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い! よって丸ごと反対!!」的スタンスは止めて、国民のために真剣に議論を深めてほしい。今回の働き方改革推進法案も、いくつかの項目にセーフティネット条項を設けるだけで、格段にリスクの低いより良い法案となったはずだ。特に与党が圧倒的多数を占めるこの状況下ではできることは限られるが、それでもたくさんある。玉砕前提の「丸ごと反対」では、いつまで経っても国民の理解は得られない。

 企業経営者は、自身の任期という短期ではなく中長期的視点で、かつ、目の前の自社さえ良ければではなく社会の一員としての自社が社会と共に繁栄していく姿勢で、経営に臨んでほしい。醜い施策は悪いレピュテイションとして必ず跳ね返ってくるし、社会が不幸になれば中長期的には自社の繁栄もあり得ない。

 そして、私たち国民は、ジャーナリズムや学者と共に、法案の今後の動向を監視していきたい。例えば、高プロ制度の適用下限引き下げや適用範囲拡大などが行われそうになったら、大きな声を上げることだ。高プロ制度を、一部の方が危惧するような、年収300万円の働かせ放題制度にしてはいけない。働き方改革関連法を労働者派遣法の二の舞にしてはいけない。

 前述したILOフィラデルフィア宣言の第1項(c)は、「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である」である。まさにその通りだと思う。日本社会全体もその真意を理解するに十分なだけ成熟していると信じている。働き方改革関連法案が国民全体を幸福にするよう機能することを祈念している。