高度経済成長期を経た当時の状況として、政界では、貿易摩擦に端を発した労働時間の大幅短縮という国際協調要請がある一方で、女子差別撤廃条約批准に向け、女性の時間外労働規制を撤廃するという微妙なタイミングであった。

 産業界では、本来職業安定法第44条で禁止されている労働者供給事業を、必要悪的な意識の下、業務請負等を装って営む企業が増加してきており、その法的矛盾の是正が望まれた。

 また労働界では、雇用者と使用者が異なる派遣労働者は労働組合に組織されにくく、労働者としての最低限の権利すら守られないケースが多く発生し、その保護救済が急務であった。

 そこで、労働者派遣事業を法的に整備することにより、同事業が適正に運営されれば、労働力需給の適正化が図られ、派遣含む全ての労働者が労働者としての基本的権利を享受でき、不安定な雇用が安定化され、労働福祉が増進されるはずであった。法文にも明記されているように、厳しい環境・条件下で組合加入などもできずに孤立しがち・不利益を蒙りがちであった「派遣労働者の保護と雇用の安定」を図ることこそが立法主旨だったのである。

 当時、労働経済が専門で、労働力需給システム研究会の会長も務めた高梨昌(あきら)故信州大学名誉教授は、労働者派遣事業の制度化を検討する上で、同事業を行う企業の適正要件として、経営の確実性や雇用管理能力と共に徳性(品性)に問題がないことを挙げた。労働者派遣事業者が、人材サービス事業者としてモノではなく「ヒト(労働者)」を扱う事業を営むには、その前提としてヒト(労働者)を大切に扱う気持ちとしての「徳性」が必要であることを要件としたのである。

労働者派遣法が結果としてもたらしたもの

 そんな労働者派遣法だが、立法以前より、労基法上、労組法上の問題点を含め、懸念点が数多く指摘されていた。