さらに言えば、イギリス北西部の港町・リバプール出身の4人は、古くから続くイギリスの身分制度では労働者階級の出だ。好機は均等に与えられ、本人の努力次第では人生を大きく変えることができるといった、いわゆる“アメリカン・ドリーム”とは異なり、生まれ育った環境、家柄が代々続くことが自然で、それに誇りを持つ人々だ。それは労働者階級であろうと変わらない。

 そんな中で、純粋に音楽が好きで演奏していた若者たちが、好機を得て超高速で世界的大スターとなり人生は一変した。「労働者階級でのし上がるには、サッカー選手かミュージシャンになるしかない」とイギリスで言われる。それが現実のものとなった4人にとって、未知の世界を地図も指南書もなく自分たちの足で進むしかなかった状況は、恐怖にすら思えたことだろう。

『Help!』とは、単なるアイドルグループのノリの良い楽曲ではなく、新天地で立ちすくむ若者の魂の悲痛な叫びなのだ。

『Help!』全訳はこちら
https://ameblo.jp/higashiemi/entry-12031717565.html

Norwegian Wood(This Bird Has Flown)

 ビートルズの風貌の変容ぶりはなかなか激しい。象徴的なあの髪型“Mop top”(マッシュルームカット)でお揃いのスーツに身を包み軽快に歌うデビュー当時の姿と、解散まぎわに見せた濃いヒゲと長髪に丸メガネで神々しさを醸し出している姿(主にジョン・レノン)とは、同一人物とは思えないほどだ。その姿の移り変わりとともに、音楽も実に多様に変化していったのがビートルズである。

Rubber Soul
ザ・ビートルズ

 1965(昭和40)年にリリースした6作目のアルバム「Rubber Soul」。このアルバムで4人は新たな音楽性の端緒を開いた。その中に収録の『Norwegian Wood』はそれが如実に分かる楽曲で、リズムは三拍子、曲調はこれまで影響を受けたアメリカ音楽(ロック、リズム&ブルースなど)の影が消えた。

 なによりインドの民族楽器であるシタールを使用し神秘的な音色を加えたのは画期的だった。タイトルに北欧の国の名が付いているにも関わらずインドとのギャップにまったく違和感がないから不思議だ。もはやどこの国の印象も受けず、聴き終えた後に残るのは幻想的な感覚だけだ。歌詞もさぞや詩的で空想に満ちた世界なのだろう。

 と思ったが、これがまったく違ったのだ。この曲はジョン・レノンの経験から生まれた “浮気の歌”だ。ジョン本人はこう言及している。