Help!
イントロなしでいきなり“ヘルプ!”と歌い出すインパクトは強烈だ。いかなる時も容赦なく耳に入ってくる。日本のさまざまな場所で時代を超え流れているので、ビートルズに詳しくない方でもかなり聞き馴染みのある曲だと思う。でも、こんな素朴な疑問を抱いたことはないだろうか? “助けて!”と歌詞の中で何度も叫ぶその問題とは、そもそも一体何か、と。
1962(昭和37)年にレコードデビューするやいなや、4人が現れると黄色い歓声が飛び交い、中には興奮し過ぎて失神してしまう若い女性も。その様子が記録されたモノクロ映像はもはや一つの社会現象を示す歴史的資料となっている。
そんなとてつもない激動の日々を過ごして3年が経った1965年にこの曲は作られた。ポール・マッカートニーのアシストのもと曲を完成させたジョン・レノンは、のちにこうコメントを残している。
ザ・ビートルズ
「『ヘルプ』は僕自身の曲だ。(あの頃)ビートルズの何もかもが、わからなくなっていたんだ。僕は豚のように飲み食いし、豚のように肥えていく自分に幻滅していた。無意識のうちに助けを求めて叫んでいたのさ」(『ビートルズアンソロジー』(ザ・ビートルズ・クラブ監修・翻訳、リットーミュージック)より)
なるほど。つまり“助けて!”の叫び声は、フィクションでもなんでもない、ジョン・レノン本人のものということだ。たった3年で激変した自分の人生に、心と体がついていけていない様子がこの話から見えてくる。そして歌詞にはそれが顕著に表れていた。
今、俺の人生は本当にいろんな意味で変わってしまった
俺の意志は闇の中で消されているようだ
ときどきひどく不安になる
助けてくれ、地に足をつけたい
助けてくれないか?
お願いだから助けてくれ!
いつも完全武装で欠点をさらけ出すことはないと周囲に言われたジョンが、明らかに胸の内をさらしている。当時の4人を取り巻く環境がいかに抑圧的であったかがうかがえる。