あったかもしれない人生――。これまで続いてきた人生を見つめ直し、いったんリセットしたくなるときがある。新しい人生を始めるのは勇気がいるし、不安もある。でも、せっかくなら違った人生を経験するのもいいんじゃないか。

 新たな人生を始めるためには、一度天国に昇り、神に近づかなくてはならない。クラシックには、精神が高揚する瞬間を捉え、天に昇る感覚を生み、神の世界を表現した曲がたくさんある。

 「このまま一本道の人生でいいだろうか」と迷う人、いままさに新しい人生の扉を開こうとしている人。天国に昇る感覚を体験させてくれるお薦めのクラシック音楽9曲を2回に分けて名盤とともに紹介しよう。

マーラー 交響曲第9番第4楽章

マーラー 交響曲第9番
レナード・バーンスタイン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 かのベートーヴェンが9つの交響曲を残して天国に旅立ったことは、後世の作曲家に大きなインパクトを残した。「第九交響曲」が日本でも大人気なのは周知の通り。まさにベートーヴェンの人生の集大成ともいえる曲に仕上がったことに異論がある人は少ないだろう。ところが、ベートーヴェンは次の交響曲を書かないうちに死んでしまい、文字通りの「集大成」という印象をこの曲に与えてしまった。そこで発生したのが、9つの交響曲を書くと死んでしまうというジンクスだ。

 マーラーはそのジンクスを真に受けたとされる。「千人の交響曲」というとりわけ壮大な曲を8番目に書いた後、番号のつかない「大地の歌」という曲を作り、さらには9番を作ってほどなく第10番の作曲に着手した。結局は、10番の作曲の途中で天に召される。数字のあやではあるが、ジンクスを守ってしまったのだ。

 しかし、そうした解釈とは関係なくこの曲が人生の集大成だと思われるのが、第9番の内容である。マーラーは、交響曲第1番から、人生の全てを描き尽くしたようなスケールの大きな作曲をしている。第2番には「復活」というタイトルをつけ、宗教的な編み方をも見せる。にもかかわらず、第9番は格別なのである。