気がつくと自分がどうしていいか分からずにいる時
母、メアリーが僕のもとに現れて
救いの言葉を言ってくれる
「構わず放っておきなさい」

 歌詞の中で“Mother Mary”との言葉が出てくるが、それが「聖母マリア」を意味するかどうか、長きにわたり議論されている。確かに聖母マリアの御言葉として“let it be”は聖書に記されているうえ、“Mother Mary”を一般的に翻訳すればやはりイエス・キリストの母「マリア」となる。

 しかし、この歌に登場する“母”とはポールの実母だ。ポールが14歳の時に乳がんでこの世を去った母、メアリー・マッカートニー(Mary McCartney)のことであり、そのことをポール自身こう語っている。

「ビートルズが緊張状態にあったある夜、亡くなって10年ぐらい経つ僕の母が夢に出てきた。母さんに会えたのはすごく嬉しくて僕をとても安心させてくれた。夢の中で母さんは"大丈夫だから"と言っていて、“Let it be”という言葉を使ったかは定かではないけれど、彼女の助言の要点はそういうことだった。“気にせず、やがてうまくいくから”。なんていい夢なんだって目覚めて思ったよ。ああ、母さんにまた会えて本当に嬉しかったな。あの夢を見られたことにとても感謝した。このことが僕に『Let It Be』を書かせたんだ。この曲はあの時見た夢がもとになっている」(「The Beatles Bible」より)

 また、多くの人が「聖母マリア」と捉えていることに関してポールはこうコメントしている。

「“Mother Mary”を何か宗教的なものと捉えるなら、そう思ってもらって構わない。人々の信仰の支えとしてもしこの歌を聴いてくれるならすごく嬉しいし、それで全然問題はないよ。いかなる種でも信仰を持つのは素晴らしいことだと思う。特に僕らが生きるこの世においては」(「The Beatles Bible」より)

 名曲になればなるほど楽曲はひとり歩きを始め、聴く者の数だけ新たな世界観が作られていくものだ。