「『Norwegian Wood』は完全に俺の歌。俺の浮気についての歌で、かなり用心深く慎重に書いた。妻のシンシアに家の外で何をやっているか知られたくなかったからね。俺は常に何人かと不倫みたいな状況にあったから」(ビートルズ関連の非公式Webサイト「The Beatles Bible」、書籍『ビートルズアンソロジー』より)
シンシアは、ビートルズがメジャーデビューした1962年に結婚したジョンの前妻で、一男であるジュリアン・レノンをもうけたのち1968年に離婚した。離婚の原因が後妻となるオノ・ヨーコであることはよく知られた話だ。
こんなにも俗っぽい内容の歌詞なのに、なぜ美化した先入観を抱いてしまったのだろうか? 曲調や音色の印象もあるが、これはひとえに邦題『ノルウェーの森』の語感の良さが要因だと思う。実に品のある美しい響きではないか。「Rubber Soul」の発売から22年後の1987年に出版された、同タイトルの村上春樹氏不朽の名作『ノルウェイの森』の幽暗さと相まって、この2つの“森”はやけに謎に包まれた深淵に思えた。
Woodは「森」ではなく「木材」
そもそも“Norwegian Wood”を『ノルウェーの森』と訳すのは間違いだ。“Wood”は森ではなく「木材、材木」との意味で、英題を直訳すれば「ノルウェーの木材」といったところだ。もし“Norwegian Woods”とWoodが複数形だったら「ノルウェーの森」は誤訳ではなかっただろう。共作者のポール・マッカートニーはタイトルについてこう吐露している。
「たくさんの人々が部屋を木材で内装していた。ノルウェーの木材だよ。それって松の木のことで、いわゆる安物。でもタイトルに“安物の松材”としてはかっこよくないだろ」(「The Beatles Bible」より)
その昔、ある女を引っかけた
いや、俺がその女に騙されたという感じか?
彼女は部屋に俺を案内した
“ねぇ、いい部屋でしょ?ノルウェーの木材でできてるの”
これではっきりした。英題は単に部屋の内装に使われたノルウェー産の木材を表しているのであって、想像を掻き立てる神秘的な“ノルウェーの森”などこの歌のどこにも出てこないのだ!
この邦題を単なる誤訳とするか、怪我の功名と思うか。それは貴方次第だ(筆者は後者と思いたい)。