科学や技術の報道で「こんなナノテク素材が発見された」「こんな機能性細胞が発見された」といった内容がセンセーショナルに情報発信され、ことによるとそれによって企業の株価が上下したりもします。
しかし、私はこうしたあり方に強く疑問を持っています。
しばらく前、中止した方がいいニセ細胞スキャンダルで大学や研究社会全体が大変な混乱に巻き込まれました。その後遺症は現在もボディーブローのように研究者の日常を痛め続けています。
正しかろうと、正しくなかろうと、何らかの情報を発信すればそれ自体がカネを引き寄せ、企業の資産価値が上がれば利ザヤが稼げる・・・。
こういうような「ポスト・トゥルース状態」は、まじめに地道にサイエンスや基礎研究に従事している(とりわけ若い)人たちに、深刻なモラル・ハザードを引き起こしかねません。
本来、サイエンスにおける事実認定は、是は是、非は非、客観的で公正、かつ厳密なものでなければなりません。
そういう厳しい自戒があって、石橋を叩いて叩いて叩き割りそうになりながら確認できた一片の真実、その積み重ねの上に、人類は本来、科学技術文明を花開かせてきたはずです。
そういう観点から見て、爽やかなクリーンヒットが、日本の若い物理学者たちから発信されました。
4月末に物性研究所とカブリ数物連携宇宙研究機構の若手研究者と大学院生4人の連名でネーチャー誌に発表された論文で著者たちは、原子分子のミクロの世界を記述する量子力学に従って完全に特定された状態(量子純粋状態)が、私たち人間が直接観測できる巨視的(マクロ)な世界記述とどのように関わり合うを基礎から考え、本質的な性質と思われる成果を導き出しました。
量子論的な純粋状態が平衡状態で落ち着いているとき、ミクロな世界特有の現象である「量子もつれ」の分布が、マクロな世界を支配する「熱力学」によって決定される、というのです。