健康診断でレントゲンを撮るとき、ブザーがなってカチッとかいう音はするけれど、X線自体は全く目に見えず、もう終わったのか、という感じになりますよね。

 ここまで高エネルギーになるとすでに放射線の領域になりますから、X線の部屋は放射線管理区域の指定がされているかと思います。黄色や赤で怖そうな表示がなされている。

 もっと短い波長、高周波数=量子力学的には高エネルギーの光はガンマ線と呼ばれます。

 こんなものに直撃されたくないと思うかもしれませんが、宇宙から降り注ぐ天然の放射線=宇宙線には、様々な高エネルギー成分が含まれています。

 私たちは生まれてから死ぬまで、いや人類発祥のはるか昔から、人類滅亡後の宇宙の果てまで、世界は高エネルギー粒子線で満ちあふれているのが本来の姿です。

 たまたま、そういうものの暴力的な被曝から免れる、オアシスのような別天地として緑の惑星地球が成立し、そこに生命が繁栄しているわけです。

 最後は大げさな話になったように思われるかもしれませんが、実は、生命にとって大切なほとんどの現象、分子生物学、脳のような知性のメカニズムから生態系の多様性を守る叡知のすべてはミクロとマクロの間にあります。

 それらを考えるうえで、本質的な基礎をなす物理の、さらに根底的な基礎に、日本の若い物理学者が基本的な貢献をしているのを目にして、とても嬉しく思いました。

 冒頭に引いたペーパーの内容以前でこの回は尽きてしまったのですが、今回投稿の著者である中川裕也、渡邊真隆、藤田浩之、杉浦祥の4氏が謝辞として、世界一線のトップランナーの名を挙げて、とりわけ熱力学第2法則とミクロの物理を結ぶ本質的な仕事に大きな貢献のある田崎晴明教授、物性研+カブリ数物機構の押川正毅教授への感謝を記していたのに目が留まり、本稿を記そうと思いました。

 押川君は物理時代の同期で、早くから多くの仕事があり、自他ともに認めるトップランナーです。さらに後進を育てることにも無言の貢献を無数にしていると思います。そういう中から、新しい世代の才能が育っている。素晴らしいことだと思います。

 若い人を応援しないで、何の大学、何の研究機関と言えるでしょうか。未来を切り開く永続的な「放牧地」をこそ、大切に作り、育てていくべきだと思います。