私たちはどうして眠くなるのか――。
襲い来る眠気と戦いつつ仕事に取り組む人の中には、そんな疑問が頭をよぎる人もいることだろう。眠気をうまくコントロールできれば、もっと人間は効率よく活動できると考える人がいても不思議ではない。
そもそも私たちは、なぜ眠るのか。また、なぜ眠らなければならないのか。睡眠は、ヒトだけでなく、多くの動物に共通するシステムであるにもかかわらず、その問いへの答えを人類はまだ持ち合わせていない。神経科学研究の大きなテーマであり、生命の本質にも触れる大きなロマンとも言えよう。
その問いに、人生をかけて答えようと取り組む研究者がいる。睡眠の基礎研究の世界的な第一人者、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長の柳沢正史(やなぎさわ・まさし)教授だ。
柳沢氏は、1991年から2014年までアメリカで研究生活を送り、1998~99年に睡眠と覚醒の制御を行う神経伝達物質「オレキシン」を発見した。睡眠に関する疾患として、睡眠と覚醒の切り換えが不安定になる「ナルコレプシー」が知られているが、オレキシンの欠乏がこの症状を引き起こすことが分かり、現在ではナルコレプシー患者の日中の眠気を抑える薬を開発中だという。
柳沢氏は、これまでマウスを対象として睡眠の研究を進めてきたが、このたび、ヒトを対象とした大規模な睡眠の疫学調査に乗り出すとして、2018年3月よりクラウドファンディングによる研究費の調達を始めた。それはどのようなチャレンジで、人類の睡眠の理解にどのように貢献するのか。柳沢氏に話を聞いていく。
睡眠にまつわる「2つの大きな問い」
――睡眠の研究には、どのような問いが残されているのでしょうか。