――問題の解決には、これまでとは違ったアプローチが必要になる?

柳沢 そこで取り組み始めたのが「フォワードジェネティクス(Forward Genetics)」という手法です。実験動物の個体ごとにランダムに突然変異を入れておいて、その中から自分の興味のある表現型を持つ個体を見つけて、原因となる遺伝子を突き止めるというものです。

 マウスの研究でもフォワードジェネティクスは昔から使われていますが、睡眠の研究で用いた人は誰もいませんでした。睡眠は調べるのが面倒くさいからです。マウスでも「静かに座っているけど起きている」というのはいくらでもあるので、脳波を取らないと客観的に睡眠は測定できません。フォワードジェネティクスをやるからには、数千という個体数を相手にしなければならないので、脳波をいかに効率よく測るかがカギになります。それは容易ではないので、そんなことは誰もやってなかったわけです。

 そして、6年越しの長い時間をかけて8000匹ほど解析し、見つけた遺伝子のうち2つを2016年の12月に『Nature』に発表しました。そのうち、Sleepyという変異マウスは、1日の睡眠量が非常に増えていて、それにもかかわらずまだ眠いのです。しかも、スイッチそのものには問題はありません。つまり、根本的な睡眠量制御のフィードバックメカニズムのどこかが破綻しているのです。

 しかも驚くべきことに、同じ原因遺伝子がショウジョウバエや線虫にもあり、彼らの睡眠様行動も同じように制御しているように見えるのです。つまり、生命にとってかなり根源的なもので、進化的にはショウジョウバエや線虫とほ乳類が分かれた辺りの、約5.5億年前のタイミングで生まれた遺伝子と考えられます。その時点では、まだ脳を持った生命は誕生していないので、「睡眠はどこから来たのか」と考えさせられるのです。

フォワードジェネティクスの流れ(左)。調べたい遺伝子の目星が付いているときはリバースジェネティクス(右)が効率的だが、今回のようにフォワードジェネティクスを用いることで、思いもよらないような遺伝子にたどり着けることもある。
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前例のない大規模な睡眠調査

――今回のクラウドファンディングで行う研究は、どのように進めていくのでしょうか。