2人が向けるレンズの先には、天井から床まで壁にくっきりとクラック(亀裂)が入っている。古澤さんが何を問題だと思い、何を記録しようとしているのか理解しようとしている様子がなんとも微笑ましい。
もっとも、「最初のうちは、私がなぜ熱心に柱や壁、天井、そして床の写真を撮っているのか、理解できないようでした」と古澤さんは振り返る。
他の駅で、床に大きなクラックが入って外壁が歪曲していたり、天井と柱の継ぎ目部分が割れていたり、屋根が欠け鉄筋だけでぶら下がっていたりする箇所を見かけた時も、彼らは何ら動じなかったという。
それどころか、「その亀裂はずいぶん前から入っているけれど、何でもないよ」「これまで大丈夫だったんだし、気にしなくていいのでは」と励まされることさえあった。
そんな彼らに対し、古澤さんは、「この先、地震が来たら、今ゆがんでいる部分はどうなると思いますか」と問いかけたり、「床にクラックが入っているということは、地盤が沈んで駅舎が傾いているということなんですよ」と丁寧に解説。
建物を見るポイントを伝授すると同時に、クラックや歪みを放置しておくことは、利用者の安全を確保する上で問題であることを伝え続けた。
付加価値を高める
設計や建設から100年以上が経過し、図面がほとんど残っていない上、壁が歪曲するほど床が沈んでいたり、一見して分かるほど大きなクラックが床や壁に入っていたりするほど深刻な老朽化――。
駅舎の設計計画を担当することになった古澤さんを待ち受けていたのは、日本では考えられない現実だった。
それでも、「正直、まったく驚きませんでしたよ」とさわやかに笑う古澤さん。
2017年1月まで2年間にわたって青年海外協力隊として活動していたボリビアでの経験が、今の調査を進める上で非常に役に立っているのを、日々、感じているという。