オープンエアーの列車
インスペクション・カーに乗るのは、気持ちがいい。
首都ネピドーから約70キロ北上したイェメティン駅から乗せてもらった黄色の列車は、線路の補修に必要な資材や部品などを運ぶための荷台と操縦するための運転席から成る軌道車で、軽トラックのような形をしていた。
荷台部分に陣取っているわれわれが前方をよく見られるように軌道車が後ろ向きに進んでいる姿は、横から見ると、きっとトラックが常にバックで走っているように見えるに違いない。
小田急ロマンスカーなどの鉄道ファン憧れの前面展望列車も顔負けのオープンエアーの眺望が目の前に広がり、左右の緑がどんどん後ろに流れて行く。
レールの継ぎ目ごとに響く大きな金属音をBGMに生あたたかい風を全身に受けているうちに気持ちが高まり、思わず立ち上がろうとして大きくよろけてしまった。慌てて座り直しながらも、顔がにやけて仕方がない。
時折、思い出したかのように警笛が「パァーン」と鳴るのも、また楽しい。
後ろの運転席からミャンマー国鉄の職員がぐいっと身を乗り出すのを見て、駅に近付いていることを知った。
駅舎の手前の線路脇で駅員がこちらに向かって差し出しているテニスラケットのような木枠をすれ違いざまに受け取り、くくりつけられた紙片を急いでほどいて木枠だけ駅舎の前に投げ返す。
列車の運行本数が少ないからこそ成り立つ通行許可証の受け渡しだが、3年ほど前にタブレットと呼ばれるこの木枠をミャンマーで初めて見た時は、そのシンプルな方法にいたく感じ入ったものだ。
今はすべての駅で見ることができるのどかで微笑ましいこの光景も、今後、この国の鉄道が近代化され、電気信号の導入が進むにつれて見られなくなるのは、少し残念な気がしなくもない。