ヤンゴン中央駅で鉄道の利用者にインタビューを行う撮影陣。左から川上ディレクター、安東カメラマン、千葉さん、そして通訳を務めた秘書のエイミン

お祭りの日の駅で

 「ダザウモン」と呼ばれる11月の満月は、ミャンマーの人々にとって、雨期明けを告げる10月の満月「ダデンジュ」に続く大切なお祭りだ。

 お寺(パゴダ)の境内では、お坊さんに寄進する袈裟を一晩で織り上げるコンテストが行われたり、地方ではロウソクをたいた風船を空に飛ばすイベントが開かれたりするという。

 これからみんなでお参りか縁日にでも出かけるのだろう、ロンジーと呼ばれる伝統的な巻きスカートと、そろいの布で仕立てたトップスに身を包んだ少女たちが、駅のベンチに腰掛け、おしゃべりに興じながら列車を待っている。光沢のある黄色や青色の布地や、流行りのチェック柄をあしらったデザインにも、彼女たちの高揚感が溢れているようだ。

 駅舎の外に出ると、今日のためにどこかに設置されたらしいスピーカーから、男性ボーカルの軽快な曲が繰り返し流れている。歌詞の意味は分からないが、甘ったるい歌声がいかにもラブソングっぽい。

 時折、楽し気に踊る若者たちを荷台に乗せて走り去るトラックからも同じ旋律が聞こえてくることから察するにかなりの人気歌手なのだろう。とはいえ、これだけ何時間も1つの曲を聞かされていれば、特にファンではないどころか、歌手の顔すら知らない筆者の頭にも否応なしにメロディーが刷り込まれそうだ。

 思わず口ずさんでいる自分に苦笑しながらホームに戻ると、そんな平和な昼下がりにおよそ似つかわしくない、険しい表情を浮かべた男性が2人、時折空を見上げながら話し合っていた。

 「影が強過ぎますね」「さっきまで良かったんですが、また日が出てきましたね」「仕方ありませんね、少し待ちますか」――。

 スタジオヒダカの川上隆ディレクターと、安東泰夫カメラマンだ。

 2人は、国際協力機構(JICA)の調査団から委託を受け、日本の協力で進められているヤンゴン環状鉄道の改修事業によって、今後、列車の乗り心地や車内の設備、速さ、駅などがどのように変わるのか、ヤンゴンの人々に伝える広報用の動画を制作するために、日本から撮影にやって来た。

 特に、今回の撮影に先立ち、環状鉄道と同じように日本の協力が進められているヤンゴン~マンダレー間の幹線鉄道の改修事業に関する広報用動画も制作した川上さんは、今回、1年ぶりにこの国に来られたことがとても嬉しそうだ。

 「せめてこの待ち時間の間に撮っておけるものはないか」と、安東さんが三脚を立てカメラを構えるたびに、狙ったようにその先に入り込んではわが物顔に寝そべってみせる1匹の犬を追い立てながらもどこか楽し気な川上さんを眺めながら、思わず口元がほころぶ。

息の合ったコンビネーションを見せた川上ディレクター(左)と安東カメラマン