救急科の短期研修員たちの帰国後に開かれた現地普及セミナー では体模型を用いたデモンストレーションも行われた

日本での経験をお披露目

 「ヤンゴン総合病院ではまだ導入されたばかりで本格運用されていないPACS(医療画像管理システム)が、金沢大学病院では部署横断的に活用されていました」

 「金沢大学病院では患者の受診記録が過去10年分保存してあり驚きました。例えば5年ぶりに来た患者であっても、以前のカルテと比較しながら診察できるため、症状の変化を把握することができて効果的だと思いました」

 人懐こい笑顔を浮かべながら、はきはきとそう話すのは、放射線科医のヤミンウーパートンさんと、放射線技師のミャットティンザーウィンさん。

 刺繍やビーズの装飾がついた鮮やかな水色の布で仕立てた「ロンジー」と呼ばれる伝統的な巻きスカートとそろいの上着に身を包んだ彼女たちは、無事に発表を終えてほっとしたのか、先ほどまで檀上でぎこちなく資料を読んでいた時とは打って変わって快活だ。

 2015年8月にヤンゴン第一医科大学から金沢大学に派遣され、11週間にわたって放射線などの画像診断技術を学んだ2人は、雨期が始まった5月半ばのこの日、病院内の真新しい2階建てのセミナールームで、100人以上の医療スタッフたちを前に、金沢大学で学んだことをお披露目した。

「PACSの本格活用を進めたい」と話すヤミンさん

 開会のあいさつに立ったヤンゴン第一医科大学のゾーウェイゾー学長は、「活発な議論を期待している」と参加者を激励。

 それに応えるかのように、「ヤンゴン総合病院でもPACSを本格活用していきたい」(ヤミンさん)、「日本で患者の安全を最優先する姿勢を学びました。ここヤンゴンでも、患者と医療スタッフの間のコミュニケーションを改善していけるはず」(ミャットさん)と話す2人の表情は、新しい目標に向かって歩き始めた自信と使命感に溢れている。

 5140万人の人口を擁するミャンマー。しかし、医師を輩出する医科大学は、全国にわずか4大学しかない。そこで、各大学とも年に300~500人を入学させ育成している。

 日本には医学部が全国に80あり、入学定員は最大でも120人規模であることと比べると、その違いは歴然だ。

 当然、医学教育の質も高くない。今までは、英国のテキストをそのまま使っていたが、この国が50年近く諸外国との交流が閉ざされてきたことから、ラボの設備も長年更新されないまま外界から取り残されていた。