夜半過ぎ、黄色の照明の下で分岐器と転てつ機の撤去と設置作業が行われた

真夜中の予行演習

 閉館後、夜間に特別に見学者を受け入れる博物館や美術館、水族館などのナイトツアーが話題を呼んでいるという。昼間のにぎわいとは別世界の、静まり返った幻想的な雰囲気が人気なのだそうだ。

 そういう意味では、終電が出た後の駅もなかなか捨てたものではない、と思う。

 その晩、ヤンゴン中央駅に着いた時にはもう21時を回っていた。人の気配が途絶え、灯りに照らされて闇にぼうっと浮かび上がるクリーム色の外壁は幻想的で、どこかロマンチックですらあった。

 ぱたぱた・・・と、自分の足音が静まり返った構内にやけに響き渡るのを聞きながら階段を上り、3番線のプラットホームに渡る。

 雨期入りを目前に控えた5月半ばの重苦しい空気が肌にまとわりつくのを感じながら、線路に降りて黙々と歩いていると、前方から、カーン、カーンという金属音や低いモーター音が聞こえてきた。

 ゆらゆらと帯状の光が揺れている。近付いてみると、安全チョッキに貼られた蛍光テープの反射だと分かった。

 ヘルメットを被った男たちが30人ほど、きびきびと動き回っている。「1、2、3!」とでも言っているのか、掛け声とともにコンクリート製の枕木がどんどん外されていく。明日の朝までに作業を終えなければならないため、皆、真剣だ。黄色い蛍光灯の照明の下で、男たちの目がきらきらと光る。

 しばらくすると、カゴいっぱいのバラストと呼ばれる砂利が次々に運ばれてくる脇で、1人の男が全身を使って大きなトンカチを振り上げ、枕木に犬釘を打ち込み始めた。一度も打ち間違えず、黙々とハンマーを振り続けるその姿に、作業を見守る日本人から感嘆の声が上がる。

 英国の統治下に置かれていた1877年に最初の区間が建設され、独立後も少数民族対策や国内統一の観点から延伸が繰り返されてきたミャンマーの鉄道。しかし、保線や改修、あるいは施設の更新がほとんど行われてこなかったため、近年は速度の低下や遅延だけでなく、脱線などの事故も頻発している。

 特に、列車の安全な運行に必要な信号機や分岐器を制御する電気連動装置が耐用年数を超えて使用されている現状は、列車の定時運行に支障をきたすばかりでなく、安全の面でも大きな問題だ。

 この現状を踏まえ、日本は2014年3月、ヤンゴン中央駅とピュンタザ駅間の約140キロについて、列車の位置情報を一元的に把握するための列車中央監視装置や列車が接近すると自動で作動する踏切自動警報装置を無償資金協力で整備するとともに、ヤンゴン駅の信号システムを改修することを決定。

 それに伴い、1つの線路を分けたり異なる線路を交差させたりする分岐器と、路線を変える転てつ機を2017年1月から順次、交換することになった。

 と言っても、列車を日中に止めるわけにはいかないため、作業を行うのは終列車が出てから始発が走るまでの時間に限られる。そこで、現在の装置を1組、実際に外して再び設置するまでの所要時間を測定してみるために、冒頭の夜間作業が行われることになった。