図面や航空写真と現場を見比べながら話し合う環状鉄道の調査団メンバーたち

1日がかりで1周を調査

 環状鉄道の詳細設計調査も、佳境を迎えている。

 夜間作業の5日前、長澤さんたちは、航空写真や図面を手にヤンゴン中央駅から反時計回りに7つ目のチンミンダイ駅にいた。枕木の間に敷かれたバラストに、時折、足を取られそうになりながら、彼らを追い線路沿いに数十メートルほど歩いただろうか、視界の端に何かが飛び込んで来て思わず足を止めた。

 およそこの場に似つかわしくない色とりどりの布の正体は、レール脇に整然と並べられた洗濯物だ。

 チンミンダイ駅は大通りに面しているが、線路との間はコンクリート製の壁で仕切られているせいか、通りを走る車の音はそこまで聞こえない。むしろ、歩行者が陸橋から投げ捨てたゴミを狙うカラスの鳴き声と、時折「ポワーン」と眠そうに響く汽笛によって静けさが一層際立つ。

 線路脇の2階建ての小屋の中も、外と同じぐらい静かだった。大人の腰ぐらいまであるだろうか、レバーが数十本、床からにょきにょきと伸びている。その横でたばこの煙をくゆらせていた男性は、「ウィンシュエ」と名乗った。ここで10年ほど働いているという。

 列車が隣駅を発車する時に指令所から入る電話連絡を受け、上り線か下り線かに応じて、適切なレバーを押したり引いたりすると、針金を通じて転てつ機が動き、線路が切り替わる。驚くほどシンプルな仕組みだが、この光景が見られるのも、今のうちだ。

 今後、列車の走行速度が上がって運行本数が増えると、今のやり方のままでは対応しきれなくなるからだ。日本が電気式の信号システムを導入した暁には、列車の検知と進行や線路の切り替えが自動で行われることになる。

 もっとも、一言で近代化と言っても、ただ新しい信号システムを入れればいいというわけではない。

 長澤さんたちがこの朝、チンミンダイ駅にやって来たのは、事前にこの駅を調査した信号担当者から、「この辺りは土地が低く、浸水が懸念される」という報告を受けたためだ。現在は分岐器や転てつ機も手動であるため水に浸かってもすぐに壊れることはないが、新システムを導入するには、盛土や排水設備の建設といった工夫が必要になる。

 さらに、新しいシステムでは、先行列車との距離を保つ閉そく信号と呼ばれる装置を、線路に沿って600~800メートルおきに設置しなければならない。そのためには、線路との間に少なくとも数メートルの土地が必要になるが、事前に回ったメンバーからは、「線路に隣接して民家が建っており、移転が必要になる」と報告された場所もあったという。