顧客志向への転換
最大都市ヤンゴンから首都ネピドーを通って古都マンダレーまで国土を南北に縦断する約600キロの幹線鉄道の改修、ヤンゴン市内を結ぶ環状鉄道の改良、そして無償資金協力によるヤンゴン中央駅の鉄道中央監視システムおよび保安機材の供与――。
総延長約6000キロのネットワークを有しながらも、深刻な老朽化によって遅延や脱線、衝突事故が多発しているこの国の鉄道を再生すべく、日本によって複数の大規模な事業が同時並行的に繰り広げられているミャンマーだが、その本質は、これまでたびたび本誌で紹介してきた通り、資金力を生かした施設の建設や設置のみにあるのではない。
一見華々しいこれらの協力も、炎天下、駅を一つひとつ回って状況を確認したり、鉄道の利用者に聞き取り調査を行ったり、ミャンマー国鉄(MR)の担当者と何度も協議を重ね、要望や理由を聞き出したりしながら意見の落としどころを探ったりするなど、机の上で図面を引くにとどまらない、地道な作業の積み重ねから成り立っている。
そして、こうした後姿を見せることによって調査のプロセスや進め方を実地に伝えることにこそ、日本の協力の真髄があるのだ。
相手に寄り添うという意味で最たるものは、日本の鉄道技術者がミャンマー側の実務者と日々、顔を合わせて直接指導を行う技術協力だ。
中でも、線路を改良するとともに、定期的に線路を補修し事故を防ぐという意識を植え付けるべく、安全性と定時性を誇る日本の鉄道を支えてきた保線管理の技術を伝えるために2013年夏から約3年間にわたり実施された技術協力は、文字通り日本の「顔」が見える看板プロジェクトだった。
期間中は、ぎらぎらした日差しが降り注ぐ日も、雨がたたきつける蒸し暑い日も、日本人技術者が毎朝線路に立ち、全土から集められたミャンマー国鉄(MR)の技術者に対して数十人ずつ1カ月間の集中訓練を行った。
日本の保線現場に長年立ってきた鉄道技術者らが数人呼ばれ、枕木・レールの交換方法やバラストと呼ばれる砂利の敷き方、そのつき固め作業に用いるタイタンパーの扱い方について、手取り足取り指導を行ったこともある。
このプロジェクトを巣立ったミャンマー人技術者の数は、のべ650人に上る。
この協力は2016年2月に終了したが、「引き続き日本人から直接技術指導を受けられる場がほしい」というMR側の要望に応える形で、4月より新たな技術協力が始まっている。