日々、駅の業務に従事しているMRの実務者を対象に、1~2カ月に1度のペースで数日ずつ開催される「鉄道人材育成講座」だ。
車両技術や旅客サービス、駅および駅周辺開発など、各分野に詳しい日本の鉄道事業出身者が講師となって首都ネピドーやヤンゴンなどで、集中講義が行われている。
2013年6月より約2年間、鉄道政策アドバイザーとして国際協力機構(JICA)を通じてMRに派遣された後、現在はこの研修を率いている日本コンサルタンツ(JIC)の東充男さんは、「この国の鉄道はこれまで顧客志向ではなかった」とした上で、「今後、全国規模で鉄道を近代化するには、鉄道組織自体を顧客志向に変えていく必要がある」と話す。
広告収入でサービスを向上
6月下旬、首都ネピドーの中央駅に近接するセミナーハウスを訪れた。約40台のデスクトップ型パソコンがずらりと並ぶ研修室をはじめ、講師控室や昼食を取るためのスペースなどが一通りそろっている平屋のこぎれいなこの建物は、2014年、住友商事の寄附によって建設された。
制服姿のMR実務者らが行儀よく座り、メモを取りながら講義を受けている様子は、まるで日本の高校や予備校の授業風景のようだ。
「ヤンゴン中央駅など一部の駅をのぞけば、ミャンマーではまだ、どこ行きの列車が何時に何番線から出るのか駅員に尋ねなければ分からない駅も多いですが、電光掲示板などで分かりやすく乗客に知らせてあげると親切ですね」
「お年寄りや荷物の多い乗客でも乗り降りしやすいように、プラットホームと車両の間の段差をなくしたり、どこからどこまでがいくらか記載した料金表を掲示したりしてはどうでしょう」
研修員たちを前に、日本とミャンマーの駅の写真をスクリーンに並べて映し出しながら、乗客へのサービス向上という観点から具体的な改善案を提案しているのは、JICの松尾伸之さんだ。
雨期に入って比較的涼しい時期であるとはいえ、お昼前にもなると、外の気温の上昇に伴い、クーラーが1台しかない研修室の温度も少しずつ上がっていく中、松尾さんの熱弁は続く。
続いて松尾さんは、東京駅構内の写真を数枚見せながら、「日本では、例えばこのように駅構内にレストランやおしゃれなカフェを誘致し待ち合わせに利用してもらったり、コンサートや絵画展を開いたりしています」、「例えばマンダレー駅の上の階にあるスペースも、こういう形で活用してはどうでしょう」と語りかけた。
駅に人を集め、長く滞在させるこうした取り組みは、鉄道の利用客をいかに安全かつスムーズにさばくか、という観点から見れば、一見、矛盾する発想のようにも思われる。