暑さに負けないプロ意識

 環状鉄道には、全部で38の駅がある。その中で、2人が撮影初日にこのミンガラドン駅に撮影にやって来たのには理由があった。

 ダウンタウンにあるヤンゴン中央駅が時計の6時の位置にあるとすれば、11時の位置に相当するここミンガラドン駅は、ヤンゴン空港からほど近く、周囲にはゴルフ場や工業団地が広がる。

 特に工業団地は、例えば日系の縫製企業ハニーズが3つの工場を構えるなど、日緬の看板事業としてティラワ経済特別区(SEZ)の開発が始まる前から海外投資の受け入れ先として重要な位置を占めてきただけあって、最寄駅のこの駅も、1日約2100人の乗降客数(2013年、JICA調査)を誇る主要駅の1つとなっている。

 将来的には、駅前にタクシー乗り場や駐車場が整備され再開発が行われるほか、ホームも今よりかさ上げされ、列車の乗降がよりスムーズになる計画だという。

 そんな改修後のイメージを分かりやすくヤンゴンの人々に伝えようと、川上さんは今回、ある工夫をすることにした。

 単に現在のディーゼル車両の実写映像と新たに導入される電気式ディーゼル気動車(DEMU)の画を並べたり、速さの違いを数字で比べたりするだけではない。

 コンピューターグラフィクス(CG)の人形にミンガラドン駅からヤンゴン中央駅まで旅をさせ、人形の目を通じて駅舎やホーム、車内の様子や車窓の風景を描くことで、見る人にも改良後の環状鉄道の旅を疑似体験してもらうことにしたのである。

 そんなわけで、ベース画となる映像を撮影するために、昼過ぎからミンガラドン駅にやって来た川上さんと安東さんだったが、思っていた以上に日が強く、樹々の影がホームや駅舎の壁にくっきり出ているため、日が少し陰るまで「待ち」を強いられているというわけだ。

 「葉の影は加工技術である程度は消せるのですが、これだけくっきりと映っていると、CGでも一つひとつ再現しなければならず大変なんです」と川上さん。晴れてさえいれば撮影ができるというわけではないようだ。

 陽射しとの闘いは翌日も続いた。「列車が行き過ぎてもしばらくfixで撮ってください」「1回で撮らなくていいので、ここにCG列車が走るんだろうなっていう画を、何本かロングで欲しいです」「バーがぐっと動き出した瞬間の画も一発欲しいですね。フルじゃなく、先っぽがある感じで」。

プラットフォームが低く、列車の乗り降りが不便だという声はインタビューでも多く寄せられた