日本から譲渡を受けた中古車両をMRなりに整備しながら運行にあてているものの、清工舎がモニターを設置した車両自体が走行不良になることもあるという。
「運行スケジュールもたびたび変わるため、モニター車が何時にどこを走っているのか、われわれですら把握が難しい」とアウンタンウー社長も苦しい胸の内を明かす。それでも、鉄道が改良された先を見越し、新規のビジネスチャンスを見出だそうとしているのは、清工舎だけではない。
最近、ヤンゴン中央駅のベンチが汚れにくいステンレス製に代わったり、駅裏の陸橋が改修されたり、広告募集の看板が設置されたりしているが、これを手掛けているのは、ハローコミュニケーションズという日系企業だ。
ゆくゆくは、駅構内でのカフェ事業など、いわゆる駅ナカビジネスも視野に入れているという。日本コンサルタンツ(JIC)も、ネピドーでMR職員に研修を行った際、東京駅周辺の案内地図に掲載企業の広告を載せている事例などを紹介しており、MR側の広告収入への意識も高まりつつあるが(参照)、「今までなかったこと」に果敢に挑み、事業化を目指す企業には感服するばかりだ。
ふと、今回の川上さんと安東さんの撮影に立ち会ったオリエンタルコンサルタンツグローバルの千葉俊也さんの言葉を思い出した。
大学時代は土木を専攻し、ゆくゆくはプラントエンジニアとして、化学や土木技術者などさまざまな専門分野の人々をマネジメントする仕事に就くことを志していた千葉さんだが、昨春入社し、環状鉄道の調査に従事する中で、鉄道にもプラントエンジニアリングに通じる面白さを感じるようになったと言う。
「例えば、列車の速度を上げようとするだけでも、信号システムや車両、バラスト、安全対策、フェンス、環境問題など、さまざまな要因を考慮する必要があります。いろいろな技術が集まったシステムをトータルマネジメントしたいという夢は、今も変わっていません」と意気盛んだ。
そんな千葉さんの言葉にあえて付け加えるなら、鉄道事業に関わっているのはエンジニアだけではない。
新しい鉄道の姿を利用者に伝える川上さんたち「映像屋」や、乗客と企業を広告によってつないで鉄道事業を活性化するアウンタンウーさんたち「広告屋」もまた、鉄道事業を盛り上げる重要なアクターだと言えよう。
生まれ変わろうとする環状鉄道を巡って、人々の挑戦は正念場を迎えている。
(つづく)