このモニター車両が動き始めたと聞き、JICA調査団がヤンゴン~マンダレー幹線鉄道の広報用動画を車内で流してもらえないかと最初に同社に接触したのは9月のこと。10月には調査団を率いるオリエンタルコンサルタンツグローバルの長澤一秀総括も同社を訪れ、アウンタンウー社長と面会した。

 自身も10年以上にわたり日本に滞在していた経歴を生かし、広告業のほかにも、旅行業や日本語教室、会社登記の支援など幅広い事業を手掛けるアウンタンウー社長の「日系企業として、日本の協力をミャンマーの人々に知ってもらうお手伝いができるなら喜んで協力します」という言葉なしには、このタイアップが実現しなかったことは言うまでもない。

「なかったこと」をビジネスに

 年が明けて2017年1月1日、ヤンゴン中央駅からモニター車に乗ってみた。環状鉄道ならてっきり6番線か7番線から出るだろうと思い込み、朝からスタンバイしていたのだが、いつの間にか2番線に入線していることに気付かず、少し焦った。

 発車直前になんとか乗り込むことができたのは、「モニター、モニター」と一緒に探し回ってくれた親切な駅員たちのおかげだ。10時半過ぎ、まだ車内はがらがらだ。

 ほっとして隣の車両に目をやると、モニターの真ん前に陣取り、画面に見入っている親子が目に入った。嬉しさが込み上げる。

 4つ目のタームウェ駅を過ぎたあたりから人が増え、乗客も、膝に頬杖をついてじっと画面に見入る若者から、ちらっと見てすぐに目を閉じる男性、おかまいなしにおしゃべりを始める女性など、反応はさまざまに分かれた。

 イエグー駅まで来るとほぼ満席になり、立ち客もちらほら見られ始めた。窓全開で走るため、列車の振動や金属音などで、ナレーションや音楽は残念ながらほとんど聞こえない。

 駅のホームと市場が一体化していることで知られるダニンゴン駅まで来ると、空のカゴを手にした女性たちが一勢に降り、代わりに野菜や果物を抱えた女性たちが乗り込んできて、乗客はほぼ入れ替わった。

 通路に人が立つと、椅子に座っている客はまったくモニターを見ることができないが、代わりに手持無沙汰な立ち客が、見るとはなしにモニターを眺めている。

 もっとも、清工舎のこの新規事業も、順風満帆というわけではない。現在、環状鉄道をはじめ、MRが保有している車両のほとんどは老朽化が著しい。

ヤンゴン中央駅に設置された看板広告の募集