市の中心部から1時間ほど車を走らせたイーストダゴン地区にあるチャンシッター踏切に、きびきびした川上さんの声が響く。それに呼応し、黙々とカメラを構える安東さん。

 現在、手動で開閉が行われている踏切も自動式に変わるため、改良後のイメージ映像として2015年に日本が無償資金協力によって整備したこの踏切を撮影しに来た2人は、この日、列車の接近に伴い自動で警報装置が鳴り、バーが降り始める様子を繰り返し撮り続けたほか、通過する列車にさまざまな角度からカメラを向けた。

 列車と列車の間隔が40分以上空くこともあったし、秋深まる東京との気温差は相当身体に応えているに違いないが、一言も弱音を吐かず、チャンスを逃すまいと、炎天下、3時間あまりにわたりスタンバイと撮影を繰り返す2人。

 照り付ける陽射しに負けないプロフェッショナルとしての気迫とプライドがその姿から立ち上ったような気がして、一瞬、暑さを忘れて目を奪われた。

動画広告とタイアップ

 2016年末、待ちに待ったニュースが飛び込んできた。川上さんが1年前に制作したヤンゴンとマンダレーを結ぶ幹線鉄道の改修事業に関する広報用動画が、環状鉄道の一部車内で流れ始めたのだ。

 この実現には、ある日系企業の全面的な協力があった。ベトナムなど東南アジアで広告事業を手掛ける清工舎。2013年よりミャンマーにも拠点を構え、ヤンゴン市内の目抜き道路脇に立つ看板を対象に広告事業に乗り出した。

 特に、同年、首都ネピドーで東南アジア競技大会(SEAGames)が開催された際にネピドー駅構内で手掛けた柱や掲示広告が好評だったことから、ミャンマー国鉄(MR)より何か後継事業をやってほしいと打診を受け、新規事業を検討。

 2016年5月から、まずは1年間の予定で環状鉄道の車内広告事業を試験的に開始した。 試験的とはいえ、その挑戦は本格的だ。

 車内広告の定番とも言える吊り広告を飛び越え、いきなりビデオ広告の導入に踏み切り、各車両の前と後ろに1台ずつモニターを設置し、クライアント企業のPRビデオを流すことにした。

 日本の山手線に付いているモニターのようなイメージと言えばいいだろうか。設置はさしあたって1編成10両だけだが、今後、クライアントが増えていけば、路線を増やしていくという。もちろん、この国では初めての試みだ。

環状鉄道の車内に設置されたモニター画面