ヤンゴン中央駅で長距離列車を待つ女性客に真剣な表情で質問する駅員たち

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「乗っていただく」発想へ

 羽田空港を日曜の深夜に発ち、早朝にバンコクで乗り換えてヤンゴン中央駅に着いたのは、月曜のお昼過ぎだった。

 日本の無償資金協力で整備が進められている列車集中監視装置の設置工事がここでも始まったのだろう、奥の方から甲高い機械音やモーターのうなり声が聞こえてくる。

 案内されるがままに1番線ホーム脇にある貴賓室のドアを押し開けた瞬間、充満していたエネルギーが一気に押し寄せてくるようで、一瞬たじろいだ。20人ほどの男性が4つのグループに分かれ、思い思いの姿勢で口々に何かを語っている。

 「彼らは、日々、改札員などとしてヤンゴン駅で働いている職員です」「どうしたらより良い駅になるか、必要なアクションについて話し合ってもらっているところです」

 周囲の喧騒に負けない、張りのある声でそう説明してくれたのは、日本コンサルタンツ(JIC)の倉持孝弘さんだ。

 「これまでのところ、清掃や放送案内、掲示方法などを改善すべきという意見が出ています」

 倉持さんの言葉に耳を傾けながら活発なグループディスカッションの様子を眺めているうちに、こらえていた眠気がいつしか吹き飛んでいた。

JR東日本時代に改札で乗客を案内する倉持さん

 ミャンマー国鉄(MR)の幹部たちを対象に、鉄道の先進技術や関連サービスについて広く紹介する「鉄道人材育成講座」。

 前出の無償資金協力による列車集中監視装置や、ヤンゴン市内を一周する環状鉄道、ヤンゴンから首都ネピドー、そして国内第2の都市マンダレーに至る南北の幹線鉄道など、鉄道インフラの整備・近代化が次々と始まる中、運行や乗客サービスも見合う水準に引き上げる必要があるとの問題意識から、MR本社や地方支社、ヤンゴン管区と講義対象を変えつつ、今春より3回にわたって開かれてきた。

 4回目の開催となる今回、ヤンゴン駅スタッフに絞ったのには理由がある。ヤンゴン駅が変わらなければMRが変わらない、逆に言えばヤンゴン駅が変わればMRが変わろうとしていると国民にも知ってもらえるからだ。

 鉄道は、出発駅から目的駅までお客様を運ぶことが一義的な役割であるのは言うまでもない。

 しかし、それに付加価値を付けるのは、輸送水準の向上とお客様志向、そしてサービスの提供だ。そこに欠かせないのは、「乗せてやっている」ではなく、「お客様に乗っていただいている」という発想だ。

 「鉄道が最も重視しなければならないのは“お客様第一”の姿勢であることを伝えたいのです」と話す倉持さん。目が輝き、顔がいささか上気しているように見えるのは、声を張り上げているためばかりではなさそうだ。