しかし、それは杞憂だったようだ。

 長距離列車を待つ人々のためのベンチが並ぶ1番線ホーム周辺や、環状鉄道が発着する6番線ホーム、停車中の車内、長距離列車の切符売り場がある正面入り口付近など、思い思いの場所で、丁寧に頭を下げる制服姿の2人組に、話し掛けられた方は最初こそ驚いた表情を見せるものの、すぐに緊張を解き、問われるままに質問に答え始めた。

 相手に応じて臨機応変に聞き取りの仕方も変えているようで、ベンチに座っているお坊さんの目線に合わせるように1人が中腰になり、もう1人が床にひざまずきベンチの上でメモを取っているペアもいれば、床の上にござを敷き座り込んでいる初老の女性の横に並んで座り、話し込んでいるペアもいる。

 翌日には、MRのトゥンアウンティン南管理局長やキーウィン駅長もインタビューに参加。正面入口の付近に椅子を持ち出し、通り掛かる利用者に直接話し掛けては、MRへの要望に耳を傾けた。

 そんな様子を眺めながら、「例えば日本で霞が関の役人に駅頭でインタビューしろと言ってもなかなか応じないでしょう。たいしたもの」だと東さんは目を細める。

 国営企業であった上、長らく軍政下にあったことから、これまでは利用者へのサービスという発想自体がなかなか馴染まない面もあったかもしれない。この国の人々が実際にどのような日々を過ごして来たのかについては、思いを馳せるしかできない。

 だが、少なくとも今、こうして目の前で利用者たちと熱心に話し込んでいる彼らの姿からは、威圧感や横柄さは感じられない。彼らがこのまま利用者の声に積極的に耳を傾けようとする姿勢を忘れず、駅サービスの変革の先頭に立つ存在になってくれるのを願うばかりだ。

自ら気付き、自ら動く

 「ヤンゴンがこんなに世界から注目されるようになり、外国人旅行客の姿も見掛けるようになったのに、いまだに環状鉄道が何番ホームから出ているのか、バガンやマンダレー行きの長距離列車は何時に出るのか、英語表記がまったくない」

駅員たちは、利用者の目線に合わせ、中腰になったりしゃがみ込んだりしながらヒアリングを行った

 

 「トラベルセンターが駅の構内にあるため見つけられない。駅の外側からでもアクセスできるようにするか、外に案内板だけでも出さないと」

 「有料トイレももっときれいにすべき」

 取材中、ものの数分、一緒に構内を歩いただけで、東さんからこんな言葉が次々と飛び出した。手厳しいことこの上ない。

 それでも東さんは、これらのポイントをそのまま駅員たちに伝えることはしない。一方的に課題を指摘し、ああしろ、こうしろと指示を出すのは簡単だ。