しかし、MR上層部を巻き込み、時間とお金をかけて取り組むべき大規模な施設の改良事業から、自分たちの小さな工夫と努力で今すぐできることまで「やらなければならないことが山ほどある」からこそ、臨場感が重要になる。
「他の誰でもない自分の駅の問題なのだから、まずは自分で課題に気付いてほしい。その上で、できることから少しずつでも実行してくれたら」
東さんの言葉からは、駅員たちの成長を願うまっすぐな思いがひしひしと伝わってくる。
翌日、20人の駅員たちは、ディスカッションと利用者インタビューを通じて発見した改善提案をグループごとに局長に報告した。「より良いヤンゴン中央駅づくり」に向け現場が発見した課題を上層部まで共有するためだ。
終了後、受講生の1人、ペインウェインさんは、「サービス向上と聞くと、線路や車両をより良いものにする、というイメージしかなかった。利用者サービスの大切さは、今回、初めて知った」と、素直な驚きを口にした。
普段は税理監督業務に従事しており、長距離バスが急速に発展し、列車の利用者がどんどん減少していることに危機感を持っていたペインさん。「今回のような利用者インタビューを積極的に行い、お客様の声を取り入れていく必要があると思う」と力強く話した。
また、「完全に停車していないのに飛び降りようとしたり、発車しているのに乗り込もうとする人には、つい怒鳴ってしまうこともあったが、今後は接客態度にも横柄にならないよう注意したい」と反省気味なのは、改札員のテインウェインさんだ。
さらに、「これまでもプラットホームで列車の乗り降りする人を手助けしたり、椅子に荷物を置いている人を注意し1人でも多くの人が座れるように呼び掛けたりしていたが、裁量次第の部分もあったため、具体的な内容をマニュアル化すべきでは」とも提言する。
サービスという、いささか曖昧な概念に今回初めて触れた2人だが、その必要性はおおむね理解したようだ。
日本でも、かつて国鉄が民営化された時には、真っ先にトイレのリニューアルが進められたほか、駅に対しても、いかに早く乗客を外に出すかという発想から、回遊する人を増やして乗客を取り込もうという考えに変わり、丸の内ドームの下で駅コンサートが定期的に開催されたり、駅の周囲や内部に商業施設が建設されたりするようになったという。
2011年に入社した倉持さん自身は、もちろん当時のことを直接知っているわけではない。それでも、「これからの鉄道輸出には、車両や軌道などの技術面だけでなく、利用者サービスも必要になってくるはず。
その意味で、みどりの窓口や改札、車掌業務など、JRが30年かけて改善に務めてきたサービスの現場には、海外で役立つノウハウが詰まっているのを感じた」という倉持さんの言葉には、着実にJRの遺伝子が受け継がれている。
(つづく)