川井:希少がんとAYA世代はイコールではないけれど、重なる部分は多いですね。5大がんはじめ、がん全体は高齢者に多い病気ですが、希少がんはAYA世代に多いという傾向があります。また、どちらもまれであるがゆえの問題を有しています。

 AYA世代の方々のがんには、「小児期に多く発生する骨肉腫や白血病などの希少がんがAYA世代に発症したもの」、「乳がんや胃がんなど中・高齢者に多いメジャーながんがAYA世代に発症したもの」、さらにまれですが「病気そのものがAYA世代に多いもの」、の3種類があると考えられます。これらは病気の性格も治療法も異なり、総数としても少ないため、「AYA世代のがん専門家」というのを育てるのは非常に難しいと考えられます。

 たとえAYA科というものがあったとしても、実際に一人の医師が、多種多様なアプローチが必要な何種類ものがん全てを診ることは困難です。したがって「病気の治療」においては“AYAという年齢に特化した専門家”よりも、AYAという年代の特徴を十分に理解した“それぞれの病気の専門家”を育てる方が良いのではないかと思っています。

 一方、AYA世代のがん患者さんが抱える問題は、「病気の治療」そのものに加えて、「進学・就職などの問題」「妊孕性(にんようせい/妊娠する能力)の問題」「家族・社会との関わりの問題」など多様なベクトルからのアプローチが必要なものが多く、医療者だけで解決することは困難です。社会の中の医療という視点が大変重要な領域だと思います。

鳥井:医療に関してはAYA世代という総論で語るべきではないということですね。

川井:そう思います。治療は個々の病気に応じて医療者を中心に行い、それを取り囲む社会・社会医学的な問題に関しては、医師だけでなく患者さんを中心とした“マルチタスクチーム”として対応してゆくことが重要なのではないかと思っています。

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 今回は、希少がんセンターの在り方から、情報提供のためのセミナー開催、AYA世代の問題についてうかがいました。次回(3回目)は、2018年2月に記念すべき第1回目を迎える「日本サルコーマ治療研究学会学術集会」から考える、これからの医療についてお聞きします。

川井 章
国立がん研究センター骨軟部腫瘍科長/希少がんセンター長

1961年生まれ、岡山育ち、岡山大学卒業。大学病院勤務、米国留学を経て2002年より国立がんセンター整形外科(現国立がん研究センター骨軟部腫瘍科)勤務。2015年より希少がんセンター長。

鳥井 大吾
軟部腫瘍体験者/がん情報サイト「オンコロ」Web担当

法政大学経済学部 卒業後Webマーケティング会社に入社。営業、SEO施策、Webサイト解析、制作ディレクション業務を行う。社会人2年目で軟部腫瘍に罹患するも治療を経て復職。2016年4月に自身のがん体験を活かすべく株式会社クリニカル・トライアルに転職。Webサイト運営を行う。

*本稿は、がん患者さん・ご家族、がん医療に関わる全ての方に対して、がんの臨床試験(治験)・臨床研究を含む有益ながん医療情報を一般の方々にもわかるような形で発信する情報サイト「オンコロ」の提供記事です。