(文・写真:木口マリ)
人口10万人あたりに6例未満の頻度で発生する、“まれ”ながんである「希少がん」。その定義ができたのは、今からほんの数年前の2015年のことでした。その翌年、2016年のがん対策基本法の改正では「希少がんの研究促進」が盛り込まれるまでになり、世の中の関心も高まってきています。
前回よりお話をうかがうのは、国立がん研究センター骨軟部腫瘍科長であり、希少がんセンター長の川井章先生。第2回目は、希少がんセンターの在り方と、情報発信として毎月行われているセミナー『希少がん Meet the Expert』の意義、そして希少がんとは切り離せない「AYA世代」の問題についてお話をうかがいました。聞き手は軟部腫瘍体験者でオンコロスタッフの鳥井大吾です。(第2回/全3回)
前回記事:「希少がんに立ち向かう医師の想いと新たな時代への医療」
希少がんへの強力な支援が必要、しかし希少がんファーストにしはしない
鳥井:近年、社会の「希少がん」への関心が高まってきています。希少がんという言葉はどこから生まれたのでしょうか。
川井:人口10万人あたり年に6人未満の発症数のがんのことを希少がんといいます。希少がんは、5大がんなど頻度の高いがんに比べると個々の腫瘍は非常にまれです。しかし、その種類は非常に多く、希少がん全てを合わせるとがん全体の15〜22%にもなり、決して無視できないものであることが分かります。そして、これら希少がんには、診療を受ける上で、情報の乏しさ、診断の難しさ、治療選択肢の少なさ、新しい治療法開発の困難さなど、頻度の高いがんにはない問題があることが次第に明らかになってきました。
鳥井:希少がんの中で、先生が専門にされている肉腫の割合はどのくらいでしょうか。
川井:肉腫は日本全国の年間発生数が4000~5000例。がん全体の新たな発症数が毎年100万人であることからみると1%にもみたないまれな腫瘍ですが、希少がんの中では最も多いものの一つです。当院の希少がんの相談窓口である「希少がんホットライン」にこれまでご相談があった1万件超のうち、約30%が肉腫の患者さんからの相談です。