模擬臓器を用いた肺がんの手術トレーニングの様子。人材育成はどのように行われるべきだろうか。

 日本人の死因のトップを占める「がん」。その中でも肺がんは、部位別に見たときの死亡率は男性で1位、女性で2位と上位に位置している(2015年)。高齢化が進む日本では、これらの疾病への対応が追われているが、高齢化社会を迎えるのは日本に限った話ではない。

 人口の増加がめざましい東南アジアでも、肺がんへの関心は高まってきている。現時点での肺がんの罹患率はまだ日本には及ばないが、患者数の増加率はタイなどでは日本の倍以上であり、今後たくさんの患者を抱えることが予想される。だが、人口あたりの医師数も少なく、また設備の遅れなどから、肺がんに対する外科手術も進んでいないのが現状である。

 そのような背景の中、ジョンソン・エンド・ジョンソンは海外から医師を招き、模擬臓器を使用した教育プログラムを開催している。豊富な手術経験をもつ日本の医師が講師となり、海外の医師にその技術を伝え、母国での医療の発展に貢献してもらうというものだ。

 今回は、タイから4人、フィリピンから3人、ミャンマーから2人の医師が、このプログラムに参加した。1日日は日本の医師が実際の患者に手術をするのを見学し、2日目に模擬臓器を用いたトレーニングを行った。

肺がんの「安全な手術」

国立がん研究センター東病院の坪井正博先生

 そもそも、肺がんの手術はどのように行われ、そこにどのような難しさがあるのか。

 今回の研修で講師を務めた国立がん研究センター東病院の坪井正博先生によると、手術の基本動作は、剥がす(剥離)、切る(切開)、分ける(展開)、結ぶ(結索)の4つ。これらを組み合わせて、皮膚の下の脂肪をめくり、その下にある血管を処理しながら、がんの組織を取り除いていくという。

 こう聞くと単純な流れのように思えるが、実際はどうなのだろうか。ジョンソン・エンド・ジョンソン インスティテュート(東京サイエンスセンター)の高瀬守氏は、その難しさを説明する。