「一番必要とされるのが、いわゆるトラブルシューティング。肺の血管というと、肺動脈や肺静脈など非常に血流が豊富で、ひとたび傷つけると非常にリカバリーするのが難しくなります。血管の周りをどういう具合に、きれいに剥いて血管だけを露出させていくか、血管をクリップや自動縫合機で止めるかなどがカギになります。そのような血管の処理と、肺の気管支の処理をいかにうまくやって、実際にがんのある部所を取り除いて、無事に手術を終わるかということですね」

 そのために、実際の手術はどのような心がけで行われるのだろうか。坪井先生はこう語る。

「訳も分からず切っていくと、大きな血管を切ってしまうこともあります。最近は3Dの画像構築も進んできましたが、実際そこに何があるか想定しないといけません。そしてもう1つ、手術は両手でやるものです。胸腔鏡の手術で助手の先生が左手代わりになったり、胸を開く手術でも助手の先生がうまく展開してくれたりするので、右手だけで手術する先生が増えてきました。しかし、そういう人はとっさのときに左手が動かないから、大出血に対応できず、それで大事故になっていきます。だから手術の基本は右手と左手を上手に使うということ。イメージと体で会得しないといけません」

「日本メソッド」の模擬臓器

今回のトレーニングで用いられたものと同じ模擬臓器。

 今回の研修プログラムでは、実際の患者の代わりに、日本国内の企業が開発した模擬臓器を使用した。どのようなモデルなのだろうか。高瀬氏はこう説明する。

「トレーニングに用いるためには、臨床の人の臓器に限りなく近いものでなければなりませんので、日本人の臨床のCTデータを元に、3Dプリンターで型を起こしています。普通にシリコンで作られているものはすごく固くなってしまうのですが、これはPVA(ポリビニルアルコール)という材質と組み合わせて、触った感じもリアルに表現してあります。膜は膜、脂肪は脂肪と、それぞれの固さの加減が違いますし、血管の強度も動脈と静脈の固さの違いがあります。なるべく人の臨床に近いように作っている模擬臓器を使っています」