このモデルを用いる際には、カメラシステムや無影灯など実際の手術室に近い環境にすることで、医師の没入感を高めることができるという。そうすることで、トレーニングの効果をより高めることができるようだ。
「たとえば、半年後に同じようなトレーニングをしたときに、自分の腕が上がっているのかどうか、前回と何が違うというのも、同じモデルを使うことによって再現性が高くなります」(高瀬氏)
手術のトレーニングには献体を用いるものがあるが、再現性の高さは模擬臓器ならではの利点だろう。
「こういうモデルが何故できるのかというと、日本人の先生方が協力してくれるからです。日本人の先生方は、こういったトレーニングであってもディティールにすごくこだわります。いいものができたら、さらにこうしようとかさまざまな意見を、フィードバックしてくれるのです。日本の先生のいろいろな思いが詰まっている模擬臓器が、日本の職人さんと融合して、それがいいものになっていく」(高瀬氏)
この模擬臓器のトレーニングは、モデルを作って終わりではなく、医師が使っていくことでさらにブラッシュアップされていく。その先にはどのような展開があるのだろうか。
「実際、それが “日本メソッド”として世界に輸出され使われていてきています。我々のこの日本でやっているトレーニングの仕組みというのは、東南アジアや中国だけでなく、本家本元の米国やドイツも注目しています。今回のこのモデルも、我々の同じようなインスティテュートがあるアメリカのシンシナティとドイツのハンブルグに送って、向こうで現地の医者や従業員が評価をしています。米国はこういう改善をしてほしいとか、ドイツはもっとこうだという意見をもらいまして、また日本でブレンドして、改良して、また出していきます」(高瀬氏)
次の世代の医師を育てる
「私が医者になった30年前は、手術は見て覚えるものでした。誰も細かいことは教えてくれませんでしたし、その頃は肺がんの手術について詳しい本がありませんでした。だから自分で見ていって、これがいいなというのを見つけるしかありません。あるところで血の出ないすごくきれいな手術を見たので、どうやってこんな血の出ない手術ができるかと考えて、研究して、自分の技術に応用しました」(坪井先生)