現在、16カ所に各国から約11万人の国連PKO(以下、PKOという)が派遣されているが、2008年以降は毎年100人以上が犠牲となっている。ちなみにPKOが開始された1949年から現在(2017年7月13日)までの犠牲者の総数は3599人である。
国別ではインド163人、ナイジェア150人、パキスタン142人など9カ国で100人以上の犠牲者を出している。9カ国の中に先進国ではカナダ、フランスおよび英国の3カ国が入っている*1。
今やPKOに参加する場合には犠牲を覚悟しなければならないのが実態である。ラフダール・ブラヒミ元国連事務総長特別代表は「人々を守るためにPKOは存在している。戦闘が多発する中、各国には犠牲を覚悟してもらわなければならない」と言明している*2。
ところが、我が国では、「戦闘」という言葉が書かれた南スーダン派遣施設部隊日々報告(通称「日報」という)を巡って国会を巻き込む上を下への大騒ぎである。
国際社会と日本で著しい認識の差
我が国政府の認識では犠牲を伴わないPKO活動を前提にしているように思われる。このように国際社会と我が国のPKOに対する認識の差は非常に大きい。
PKOは、安全保障理事会(以下、安保理という)で決議されるマンデート*3(派遣団の目的や任務を規定)に基づき派遣される。
近年、軽装備のPKOのマンデートに文民保護(地元住民、国連職員、NPO職員など)の任務が加えられるようになってきた。その結果、PKO要員の安全確保など様々な問題が生じることとなった。
直近の事例では、派遣の途中でマンデートが変更され、任務に文民保護が加わった国際連合南スーダン派遣団(UNMISS)における軍司令官の更迭がある。
新聞報道によると、2016年7月に生起した南スーダン首都ジュバ市内での戦闘に際し、UNMISS司令部近傍において戦闘が発生し国連関連機関が襲撃されたため、国連関連機関がUNMISSに対して警護を要請したが、UNMISSは、対応能力がないとして要請を却下した。
このため、市民などの虐殺を阻止できず、7月の3日間で保護施設にいた20人以上の避難民を含め、少なくとも73人が死亡したと言われる。国連事務局は、UNMISSの対応が不十分であったとしてUNMISSの軍司令官を務めるケニア軍中将を更迭した。
しかし、ケニア政府は、そもそも国連がUNMISSへ必要な人員と装備を割当てなかった責任を転嫁したものだ、として強く反発しケニア部隊を撤退させてしまった。
この事例の問題点は2つある。1つは、住民が戦闘に巻き込まれたり、攻撃の対象になったりしている紛争地域に派遣されている軽装備のPKOに対して文民保護の任務が付与されたことである。これまでは、受入れ国政府が実施する文民保護を支援することがPKOの任務であった。
もう1つは、文民保護の任務を与えられながら、軍司令官に任務遂行に必要な戦力(兵力・装備)が与えられていないことである。
*1=国連HP「Fatalities」http://www.un.org/en/peacekeeping/fatalities/documents/stats_1jun.pdf
*2=NHKスペシャル「変貌するPKO現場からの報告」2017年5月28日放映
*3=マンデート(Mandate)は、一般に職務権限や使命、任務などと訳されるが、安保理決議においては派遣団の派遣目的や任務を規定している。従って、適訳がないため本稿ではカタカナ表記としている。