男性より深刻な女性の貧血

 そのほか、激しい運動によって、胃や腸と言った消化管から微小な出血を引き起こしてしまうことによる貧血の報告もある。

 このように、スポーツ選手は、貧血に陥りやすい条件が揃っている。もちろん、選手だけではない。日常生活に運動を取り入れている人にも同様なことは起こり得る。

 だが、女性のスポーツ選手は、男性のスポーツ選手に比べて事態は深刻だ。女性は、月経による血液の喪失があるため、一般的に女性は貧血になりやすい。それにスポーツが加われば、鉄の必要量は増え、重度の貧血に陥りやすくなる。

 また、成長期のスポーツ選手も貧血になりやすい。骨格の形成や筋肉量の増加といった成長において、鉄が必要とされるからだ。

 では、どうしてスポーツ選手の貧血が、問題視されるのだろうか?

 それは、スポーツ選手の成績に大きく関わるためである。エネルギー源として体内に蓄えられている糖や脂肪を燃焼させ、エネルギーを生み出すには、酸素を必要とする。その酸素を全身に運搬しているのが、ヘモグロビンであり、鉄はヘモグロビンの中に存在している。

 つまり、鉄の不足はヘモグロビン濃度の低下を引き起こす。すると、酸素を全身に運搬できなくなり、スポーツ選手の持久力やスタミナは落ちてしまう。スポーツ選手に悪影響を及ぼすのは、言うまでもない。

 日本陸連による貧血に対する警鐘は、スポーツにおける貧血に対する認識を高める上でとても有意義だと思う。だが、鉄の過剰問題についての言及には疑問を感じ得ない。アスリートの貧血は深刻だ。往々にして貧血に陥りやすく、そう簡単に過剰にはなりにくいからだ。

 一般に、1日約10mgの鉄を摂取する必要がある。体内から毎日約1mgの鉄が汗や尿・便から失われる一方で、摂取した鉄は10%ほどしか吸収されないためだ。