4月16日、日本陸連栄養セミナー2016「陸上選手の貧血について考える」が開催された。日本陸連が2008年に立ち上げた「食育プログラム」の一環として行われた初のセミナーである。
今回取り上げられたのは、陸上選手にとって重要な問題の1つである「貧血」だった。貧血であるアスリートは多い。貧血は、正真正銘の病気だ。
今回のセミナーでは、貧血に対する基礎的な知識や貧血の対処法から予防法や改善法に至るまで、様々な議論がなされたが、日本陸連がアスリートの貧血に対して警鐘を鳴らしていることは大切な指摘である。
だが今回、注意すべき点として「鉄の過剰摂取」が取り上げられた。安易な鉄の静脈内投与は体内の鉄過剰状態を引き起こして非常に危険なので、経口鉄剤を試すことなく体調が悪いという訴えだけで鉄剤を絶対に注射してはならない、という。
簡単に言えば、鉄が足りないのが「貧血」で、鉄の過剰な蓄積が「鉄過剰症」だ。
人間は鉄の排出機能を持たないため、鉄の過剰摂取や繰り返しの輸血、ヘモクロマトーシスといった遺伝性疾患によって鉄の過剰な蓄積が生じると、臓器障害を引き起こす。
とはいえ、臨床現場において、鉄過剰症はほとんど見られない。普通に生活しているだけでは、鉄の過剰にはならない。まして、貧血になりやすいアスリートの鉄の過剰は、そう簡単に起きるものではない。
そもそも、鉄剤注射は、貧血改善のための治療法の1つにすぎない。どうしても鉄剤の注射をする以外に方法がない場合もある。
鉄剤注射は、決してドーピングではない。にもかかわらず、「危険だから鉄剤は注射するな」というのは、貧血に対する誤解を生じさせないだろうか?