そんな筆者を横目に平然と橋の上を歩き回り、橋桁に振動計を設置したり、鏡を使って裏側の状態を確認したりしているのは、ビーエムシーの公門和樹さんとレールテックの七村和明さんだ。
「ボルトやリベットがゆるんでいないか気をつけて」「錆びの鉄粉はきちんと掃き落としてください」などとミャンマー国鉄(MR)の技術者たちに声を掛けている。
早くから英国によって鉄道整備が進められたこの国だが、太平洋戦争中は多くの鉄道橋梁がたびたび攻撃の対象となった。
1903年に英国がマンダレーとラショーを結ぶ線路上に架けたこのゴッティ橋も、橋脚の下には今なお地雷が多数埋められている上、英軍の砲撃をかいくぐって日本の技術者が修理した歴史がある。
以前、ある人から「橋とは戦争が始まると真っ先に落とされ、戦争が終わると真っ先に架けられるもの」だと聞いたことを思い返しつつ、戦後70年の節目にミャンマーと日本の技術者が一緒にこの橋の上に立っている意味を考えているうちに、いつしか雨は上がっていた。
先を見据えた協力
2日後の午後、ヤンゴン市内にあるMRのマルワゴン工場の母屋では静かに講義が行われていた。
前出の公門さんが、現場で撮影した写真をスクリーンに映し出しながら、「錆びが付着したまま上から塗装しても、内側から腐食が進んで揺れにつながるので、塗装の際は必ず先に錆を落とすようにしてください」「定期検査の時には橋脚の周辺の草も刈るのが望ましいです」などと具体的に作業手順を説明する。
さらに、「最近、ゴッティ橋の揺れが激しくなっているように感じるが、問題ないですか」というMRからの問い掛けには、振動計測の結果をグラフで見せながら「支点部や橋脚、張板の塗装や清掃を徹底して腐食を進行させないようにし、荷重も現状のまま維持していれば大丈夫ですよ」と答えた。
今回の調査は、日本の保線技術をMRに伝えるために2013年夏からJICAが実施している技術協力の一環として、冒頭のゴッティ橋をはじめ、マンダレー近くのインワ橋やヤンゴン郊外のシッタン橋など全10橋を対象に行われた。