ヤンゴン環状鉄道は人々の生活圏との距離が非常に近い

 「列車はなぜ踏切でスピードを落とさないのですか。左右の確認はしないのですか」「赤くて丸い警報機は、列車の運転士と線路を渡る自動車の運転手、どちらのためのものですか」「遮断機のせいで線路内に閉じ込められることはありませんか」――。

雨の踏切視察

 ここは、JR秋田駅から南西約6kmに位置する豊岩踏切。お互いの声すら聞き取れなくなるほど大粒の雨が、時折バタバタと大きな音を立てて傘をたたき付ける中、7人のミャンマー人たちが雨に負けじと声を張り上げ、雨合羽姿の男性に次々と質問を投げ掛けている。

 そんな彼らの顔を見ながら、男性が顔をつたう雨をぬぐいもせず、質問に一つひとつ答えていく。

 「列車の運転士が常に確認しているのは、線路沿いの信号です」「警報機は、列車が近付いていることを自動車や歩行者に知らせて踏切内への進入を止めるためのものです」「警報機が鳴り始めてから無理に進入した車両を逃がすため、2本の遮断棒が下りるタイミングには少し時差があります。また、線路の内側から外側方向に遮断棒を強く押せば開きますが、逆方向には動きません」。

 説明がミャンマー語に翻訳されるたびに、ミャンマー人たちは「へぇっ」と驚いたり、周囲の人と何やら言葉を交わしては、新たな質問を男性に投げ掛ける。

 日本の都市鉄道の現状や維持管理、人材育成の様子を学ぶため、ミャンマー国鉄(MR)の職員たちが5月末、来日した。

秋田車両センターでE6系秋田新幹線こまちの定期検査について説明を受けるミャンマー国鉄の職員(左)

 1週間の滞在中は、秋田総合訓練センターや指令室、技能教習所など、JR東日本秋田支社の各施設を訪問。運転士や車掌が実際に訓練で使っているシミュレーターを体験したり、鉄道固有の技術や技能を継承する教育の仕組みについて学んだ。

 このほか、E6系秋田新幹線こまち、在来線の気動車・電車・電気機関車の定期検査を行う秋田車両センターを訪れ、建屋の中で職員たちが黙々と台車やブレーキ、電気機器などの動作確認や調整を行う様子を視察した。

 一行が、秋田支社管内95駅の信号設備、535カ所の踏切のメインテナンスを所管する秋田信号通信技術センターを訪れた後、冒頭の豊岩踏切に降り立ったのは4日目の夕方のことだ。

 同センターで説明を受けていた時から、「もし故障が発生した場合はどのように関係者に連絡が入るのですか」「誰が列車の運行停止を判断するのですか」「車で行けない山奥にある信号が故障した場合はどうするのですか」などと、特に事故発生時の運行管理に強い関心を示していた彼らにとって、上下2本の在来線の線路を列車がひんぱんに行き交い、その合間に車両や歩行者が整然と横断する豊岩踏切の光景は、よほど印象的だったらしい。