環状鉄道の踏切では、列車が近付くと人が旗を振って横断者を止めてから白と赤に塗られた木製の遮断棒を手動で下ろす

2040年を見据えて

 ミャンマーの鉄道整備に関心を寄せるドナーは日本だけではない。JICA東南アジア・大洋州部の杉田樹彦さんによると、同国北部ミッチーナへの地方路線を韓国が整備する計画や、中国が機関車の整備や車両工場を建設する計画が進んでいるという。

 しかし、そう指摘した上で杉田さんは、「それでもミャンマー側が今回、ヤンゴン市の“顔”と言える環状鉄道の改良を日本に任せると言ってくれたのは、これまでの日本の鉄道業界の協力を通じて高い安全性に対する深い信頼が築かれてきたためにほかならない」と自信を見せる。

 そんな日本の支援構想はさらに膨らむ。次なる照準は、前出のマスタープランで環状鉄道と並ぶ優先プロジェクトとして提案されている都市鉄道の整備構想、すなわちヤンゴン国際空港~ダウンタウンを結ぶ南北線と、ティラワ地区~環状線を結ぶ東西線の建設だ。

 この計画の根拠とされているのは、東京が歩んできた道のりだ。

 510万人という現在のヤンゴン都市圏の人口は、1949年当時の東京都区部の人口とほぼ等しい。その後、東京は1968年までに900万人近い人口を有する都市へと成長した。

 かたや、ヤンゴンも今後、当時の東京とほぼ同じ人口成長をたどり、2030年までに900万人を、2040年には1100万人を超えると言われているが、1968年当時の東京には山手線に加えて地下鉄東西線や国鉄中央線が走っていたことを考えると、ヤンゴンも早晩、環状鉄道と既存の路線バスだけでは輸送容量が飽和し、基幹交通ネットワークの補強が必要になるのは明らかだという。

 戦略的な公共交通ネットワーク整備の実現に向けて、日本のさらなる鉄道協力に寄せられる期待は高い。

 ヤンゴン都市圏の住民に効率的で安全かつ快適、そして環境に優しい交通サービスを提供するための、試金石となる事業の挑戦が始まった。

(つづく)