こうした想定外の“珍事件”の数々を乗り越え、なんとかやり遂げた調査結果を基に、対象の橋梁を「現状のまま使用可能」「改修したら使用可能」「架け替えが必要」「至急改修が必要」の4段階に分類してみせた西村さんと羅さん。彼らのプレゼンにはMR幹部たちも興味津々で、「この技術についてもっと詳しく教えてほしい」との要望が口々に寄せられた。
過酷な現場調査だったが、振り返る西村さんの表情は明るい。
地質データも設計図面も揃っていて事前に予測振動数を立てることが可能な日本と異なり、個別の設計図面が残っていないミャンマーの現状に最初こそ戸惑ったものの、YMDD調査団が並行して沿線321地点で実施していた地質調査の結果を活用することで、「ミャンマー方式の判定方法を編み出すことができた」(西村さん)からだ。
日本で生まれた衝撃振動調査の技術が、情報が不十分な開発途上国でも活用され得る形に進化を遂げた瞬間だった。
ヤンゴン~マンダレー間の幹線鉄道の近代化やヤンゴン市内の環状鉄道の改修など、大規模な鉄道事業が目白押しのミャンマー―。しかし、時間的にも予算的にも、一度にすべてをアップグレードすることが不可能であるのは言うまでもない。
しかし、鉄道橋は、もし倒壊などが発生したら大事故につながりかねない。だからこそ、健全度を適切に判定し、定期検査を行い、長く使い続けるための適切な維持管理技術と、架け替えや改修を行うための設計技術は、いずれもミャンマー側が将来、近代化された鉄道を運営していく日のためにも、今のうちに習得しておくべき不可欠な技術なのである。
海を渡った橋梁技術者たちの「先を見据えた」技術指導が、明日の鉄道の安全をつくっている。
(つづく)