西村さん、こと、ジェイアール総研エンジニアリングの西村昭彦・代表取締役は、30キロ程度の重りを橋脚にぶつけ、固有振動数と振動モードを測定することで橋梁の健全度を確認・判断する「衝撃振動試験」の開発者として知られる人物だ。
橋梁を壊さなくても内部を把握できるという意味で、「見えないものを見る」この技術が一躍社会に知られるようになったのは、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災がきっかけだ。
新幹線や高速道路の高架橋が落下するなど甚大な被害が出たこの震災では、基幹インフラの迅速な復旧が課題となったが、当時、最も問題となったのは、むしろ落橋を免れた高架橋だった。
「壊れた橋梁は明らかに架け替えればいいが、一見壊れず残った橋梁が、そのまま使用しても本当に安全かどうかをどうすれば確認できるかが問われた」(西村さん)。そこで威力を発揮したのが、衝撃振動試験だ。
西村さんは、全国の鉄道会社から集まった橋梁技術者らとともに、阪神地区の全高架橋に対してこの試験を実施。危険性のある橋梁と問題ない橋梁を短期間で見分け、新幹線の迅速な復旧に大きく貢献した。いまや、この技術は、日本全国の鉄道事業会社で取り入れられているという。
昨年夏に西村さんを訪ね、じきじきに説明を受けた藤吉さんは、「この方法なら橋脚や土台部分の正確な図面がないミャンマーでもいけるかもしれない」と手応えを感じて、その場でYMDD調査への参画を依頼。念願かなって今年の4月末に西村さんのミャンマー訪問が実現した。
「ミャンマー方式」を開発
水かけ祭りが行われる4月は、一年の中で最も暑い季節だと言われている。
オリエンタルコンサルタンツグローバルの河合伸由さんと、ジェイアール総研エンジニアリングの羅休・構造技術部次長が事前に絞り込んでおいた6橋を回り衝撃振動調査を行う西村さんたちにも日差しは容赦なく照り付け、連日43度を超える気温が日に日に一行の体力を奪っていく。
さらに困ったことには、重りをぶつけた後に振動を計測するための計器も、直射日光によって温度が上がり過ぎて正常に作動しなくなってしまった。手持ちのビニール袋や紙をかざしてみても、まったく効果はない。
羅さんが思いついて市場までアルミホイルを買いに走り、お弁当を包むように三方を包んでみたところ、なんとか再び計測が可能になったという。