図1 地域別に見た露光装置市場の推移(「電子ジャーナル」を基に筆者が作成)

 2001年以降、アジアでの露光装置の売上高が急拡大している(図1)。それと同時期に、露光装置の世界シェアで長らく1位に君臨し、「装置業界の帝王」と呼ばれていたニコンに代わって、オランダのASMLがシェアトップに立った(下の図2)。

 急拡大したアジア市場で露光装置のシェアを独占したことが、ASML躍進の原動力になっている。すなわち、ASMLは台湾TSMCや韓国サムスン電子といった半導体メーカーと「共進化」(前回の記事を参照)したのである。

図2 露光装置の売上高ベース世界シェア(「プレスジャーナル」おおび大和総研のデータを基に筆者が作成

 露光装置とは、写真の技術を応用して、シリコンウエハ上に塗布した感光性樹脂(レジスト)に光を照射することにより回路パタンを形成する装置である。解像度の進展とともに、装置価格が高騰しており、「ArF液浸」と呼ばれる最先端露光装置は1台50億円、次世代のEUV(Extreme Ultra Violet)露光装置は100億円を超えると言われている。

 露光装置は、人類が生み出した最も精密で高価なマシンであると言える。東芝の微細加工の責任者である東木達彦部長は、「まさに兵器だ」とすら述べた。半導体の量産工場には、「兵器」のごとき露光装置が数十台並ぶ。この兵器をどのように使うかが、半導体デバイスの性能、品質のみならず、コストにも大きく影響する。

ASMLの装置はスループットと稼働率が高い?

 ASMLはどのようにしてTSMCやサムスン電子と共進化できる露光装置を開発したのか?

 装置メーカーに所属している筆者の知人によれば、半導体メーカーからの装置メーカーの要求に関して、日本と、韓国および台湾とでは、大きな違いがあるという。

 日本半導体メーカーが、微細性と精度を強調するのに対して、韓国および台湾半導体メーカーは、スループットと稼働率を、特に強調するとのことである。

図3 カタログ値で比較した3社の露光装置のスループット

 ASMLが、ステージ(シリコンウエハを固定する台)を2つ持つ「ツインスキャン」と呼ばれる露光装置を開発した背景には、上記のような、韓国および台湾メーカーからのスループット向上に対する強い要求があったからだと考えられる。

 ここで、各露光装置メーカーの最先端露光装置(ArF液浸)のカタログスペックを比較してみよう(図3)。スループットに注目すると、キヤノンは不明だが、ASMLとニコンのスループットは、数値的には、ほぼ等しい。