ドラッカーがマーケティングについて語ったことを丹念に調べ上げて作られたという1冊の本「ピーター・ドラッカー マーケターの罪と罰(原題は「Drucker on Marketing: Lessons from the World's Most Influential Business Thinker」)ウィリアム・コーエン著、日経BP社、6月24日発売)を読んだ。
ピーター・ドラッカー、マーケティングを語る
経営学の神様と呼べるドラッカーだが、「マーケティングについては系統だった論文を書いていない」と、この本の前文でフィリップ・コトラーは書いている。それだけにドラッカーとマーケティングを結びつけたこの本は価値があると言う。
確かに、豊富な事例と歴史観が満載で読み応えがある。ドラッカーの弟子だったコーエン氏が、ドラッカーが亡くなったあとの事例も多数入れているので、“古さ”を感じないのもいい。
例えば、デリバティブ融資の誘惑を断ち切れたおかげで、リーマンショックの際に甚大な被害を受けなかったバンク・オブ・アメリカのケース。
また、2008年の大統領選挙で民主党候補の座を争ったバラク・オバマとヒラリー・クリントンのケース。これに学べば、日本の民主党もかつての日本社会党のような沈没だけは免れるかもしれない。
さらには少し前、パナソニックがファンヒーターの回収をテレビなどで大々的にアナウンスしてブランドを上げたことがあった。
これについてはこの本では直接取り上げていないが、米国でも全く同じようなケースがあったことが書かれている。ジョンソン・エンド・ジョンソンの事例だ。
1980年代にシカゴで同社の市販鎮痛剤「タイノール」に青酸化合物が混入され7人が亡くなったという。このとき、同社の経営幹部は市中に出回っている3100万本をすべて回収すると同時に、数十万ドルの広告費を使って国民に飲まないよう呼びかけた。
同社には1億2500万ドルという多額の費用が発生して経営を圧迫したが、結果的には顧客を味方につけて市場シェアを大きく伸ばしたという。
顧客の目線を持った経営トップのおかげでピンチをチャンスに変えることができたわけだ。ただし、この話には後日談があるのが面白い。