(英エコノミスト誌 2013年6月8日号)

地政学上のライバルである中国に対して米国人が抱く不満は、覇権争いとは別のところにある。

 バージニア州スミスフィールドに住むハム好きの人たちは、地元の町で圧倒的な存在感を持つ大手豚肉生産業者が間もなく中国の大企業に買収される理由は、米国の弱さにあると考えている。

 ピーナツを餌として育てた豚を原料に、ヒッコリーで燻製したハムは、この地域が英国の植民地だった時代から評判の名産品だ。スミスフィールドの町では、食用豚のイメージは米国旗に匹敵する誇りの象徴であり、店先の飾り付けや学校のスポーツチームのユニフォーム、町の給水塔の装飾にもあしらわれている。

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スミスフィールド・フーズ買収が実現すれば、中国による対米投資としては過去最大になる〔AFPBB News

 しかし、数十億ドル規模の買収がこのまま実現すれば、この町に本拠地を置く世界最大の豚肉生産企業、スミスフィールド・フーズは、中国の食肉大手である双匯国際の子会社になる。

 この買収提案のニュースは、6月7日と8日に予定されていた米中首脳会談の直前にもたらされた。承認されれば、中国から米国への投資としてはこれまでで最大規模となる。今後も間違いなく、さらに大きな投資案件が続くだろう。

 こうした投資は、両国の相対的な経済力や、ライバル同士が新たな相互依存の段階に入る中で、どちらが優位に立つのかといった問題について疑問を提起する。

 両国の相互依存関係は、市場開放や企業秘密に関するサイバー窃盗を巡る複雑な経済紛争と同時に起きているがゆえに、より一層注目に値する。さらに、民主主義と法の支配について、両国に思想的な違いがあることは言うまでもない。

スミスフィールドに漂うあきらめムード

 スミスフィールドの町では、中国の台頭とその意図に関する具体的な問題は、この上ないほど差し迫っている。スミスフィールド・フーズは、この町ではずば抜けて大きな雇用主だ。しかし、つい先日の蒸し暑い午前中に町の大通りで話を聞くと、中国の意図はそれほど問題になっていなかった。

 実際に衝撃を受けた地元の人々が話題にしていたのは、米国人幹部のことだった。

 会社側は、雇用は保障されると明言している。しかし、会社を外国人に売却した後で、経営陣が一体何を約束できるのかと、町の人々は冷ややかだった。その外国人の素性については、あまり議論されていなかった。代わりに話題になっていたのは、米国企業が外国人の手に落ちるのを目の当たりにする悲しさだった。