先々週、ハンブルクの話の中で、ドイツでは売春は合法だということに触れたら、びっくり仰天した読者が多かったようだ。2002年に売春法が施行されて以来、この国では売春は合法、つまり、公序良俗に反する行為ではなくなった。
とはいえ売春は、それ以前も、あたかも合法のように営まれてきた。
中でもハンブルクのレーパーバーンは、アムステルダムの「飾り窓」と共に世界的に有名だ。ちなみに、アムステルダムの「飾り窓」の売春も、合法化されたのは2000年のこと。それまでは、ずっと黙認されていたのである。
売春婦(夫)には健康保険も年金も保障されているが・・・
さて、しかし、そのハンブルクでは、普通の市民は、自分たちの風光明媚な町がヨーロッパでも名にし負う売春街を抱えている話などには触れない。娼婦街も売春婦も、まるで存在しないかのようだ。
合法であろうが、違法であろうが、見た目には何も変わらない。ただ、すべてが変わらなかったかというと、それは違う。合法になって以来、売春婦を雇っている人間と、買う客の立場が強くなった。そして、売春婦の環境は、さらに過酷になったのである。
この売春法を作るのに熱心だったのは、当時、連立政権をなしていたSPD(社民党)と緑の党だった。彼らの目的は、売春を他の職業と同等にすることによって、売春婦(もちろん売春夫も)の法的、および社会的な状況を改善しようというものだった。
それ以来、売春は正規の一大産業となり、そこに従事する売春婦はそれを職業として届け出て、健康保険やら年金など社会保障制度にも組み込まれることが可能になった(実際にそうしている人は稀)。また、売春婦を使って商売をする者もそれを事業として届け出て、売春婦の社会保障費の半分を負担する義務が生じた(これも稀)。
要するに、SPDと緑の党の言いたいのは、「売春はパン屋やレストランと同じく普通の職業で、悪いことでも、恥ずかしいことでもありませんよ」ということだ。
彼らの考えでは、セックスは商品であり、それを売ったなら、料金を受け取るのは当然の権利。その当然の権利を守るための法律である。どちらかというと、彼女たちを勇気づけ、売春を奨励しているように見えるが、それについては、今は論じない。
いずれにしても、これにより売春婦は一市民としての権利を確立し、従来のように搾取されることもなく、世間から軽蔑の目で見られることもなく、ヒモではなく警察の保護の下に置かれ、プライドと希望を持って、堂々と世間から公認された職業に従事することができるようになった。「めでたし、めでたし!」というのは、もちろん嘘だ。