豊かな食文化は地域の発展あればこそ

三ツ星レストランを閉じたフランス超有名シェフの転身(後編)

2010.06.01(Tue)鈴木 春恵

 この話題が始まると、思いはどこまでも遠くへ飛んで行って終わりがなさそうなのを自分でも承知しているのだろう、彼は、「まぁ、旅の詩ですよ」と、やはり笑って、やんわりと話を締めくくる。

53歳で人生の1つの章を閉じ、次ぎの章を書き始める

レストラン客席からは、広々とした水平線の眺めが楽しめる

 そしていかにも、ロマンティックなフランス紳士らしく、このようにも語った。

 「あの決断はね、2008年の8月15日にしたんです。友人が言うんです。『リーマン・ショックが来ることを予想していたんじゃないのか?』って。あれが起きたのがすぐ後の9月から10月でしたからね」

 「でも私は全くそんなことは知りませんでしたよ。8月15日というのは聖母マリアの祝日で、その日をもって決断をしたんです。しかも、大事なことはいつも妻とふたりで決めてきたのですが、これは唯一自分ひとりでした決断でした」

 「妻は『どのような決断をしたとしても、私はそれについてゆきますから』と」

 「53歳。章を1つ閉じて、また次の章を書き始める。例えばセンチメンタルなことで章を書き換える、つまりこの年齢で女性を変えるというのは、いかにもありふれていますけれども、私はプロとしての仕事を変えた。この方がずいぶんとシックでしょう?」

 なるほど、これは2組に1組の夫婦が離婚するともいわれる今のフランスのご時世を思えば、しかも、多くのサクセスストーリーの主役たちのことを考えれば、いかにもオリジナル。それを「シック」と軽妙に客観視して語れるセンスも、また一流。

 また何年かして、物語の続きも書き進んだころに、その旅の詩に耳を傾けてみたい。オリヴィエ・ロランジェ氏とは、会う人にそのような感情を抱かせるような、なんとも魅力的な個性を生きている人なのだった。

 

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