豊かな食文化は地域の発展あればこそ

三ツ星レストランを閉じたフランス超有名シェフの転身(後編)

2010.06.01(Tue) 鈴木 春恵
筆者プロフィール&コラム概要

 しかし、いかにこのレストランが評判になり、いかに愛着があろうとも、ロランジェ氏にとって、かつてのレストランとは意味が違う。なぜなら、彼がここで厨房に立ち、鍋を握ることはないから。

20歳の時には人生は永遠に続くように感じていた、今は・・・

ロランジェさんの下で長年働いてきたスタッフたちは、いずれもにこやかできびきびと、非常に気持ちのよい対応でゲストを迎えてくれる

 「もちろん、完全に私のコンセプトが生かされたレストランだし、毎朝打ち合わせは欠かせません。ミシュランの発表があった日の朝、スタッフの皆に冗談を言ったのです。『突然30歳ほど若返ったよ』ってね」

 「でも、星が1つだろうが10だろうが、私にはもうあまり意味のないことなのです。ただ、チームがとても喜んでいましたから、彼らのためにはとてもうれしかったですけれどね」

 「20歳くらいの時はね、人生っていうのはいつまでも続くような気がするものです。しかし、ある時、ちょっと後ろに下がってものを考えるようになる。何かを伝えていかなくてはいけないのじゃないかな、とね」

 「“トランスミッション”。それをするのは、自分がこの世からいなくなる時ではなくて、その前からつくり上げてゆかなくてはならない。私は今ちょうどそういう時期に来ているのだと思いますよ」

 ロランジェ氏は、それをスポーツの世界に例えて話してくれた。

ホテルのテラスからは、モンサンミッシェル湾がすぐ目の前に望める

 「かつて私はラガーマンでした。それも、華やかなバックスのポイントゲッターではなくて、地面に張りついてプレーするフォワードとしてスクラムの中のボールをかきだす役割」

 「それがキャプテンになり、今は監督になったということです。どこでいつ試合があると告げて、選手を配置して、チームのモチベーションを上げて、戦略を練る。しかし、もう皆と一緒には走りません」

 彼のチームのメンバーは70人。三ツ星レストランを閉めるに当たって、彼は1人の解雇者も出していないという。つまり、かつてのレストランのスタッフも、ロランジェさんが拡大してきた事業のいずれかのポストで今も仕事を続けている。

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