豊かな食文化は地域の発展あればこそ

三ツ星レストランを閉じたフランス超有名シェフの転身(後編)

2010.06.01(Tue)鈴木 春恵

 それを聞いて、ペンションや料理学校、スパイスショップなどが、三ツ星時代の終盤になって開かれたものだったことが思い出される。

料理の味を引き立てるスパイスの研究に没頭

「ル・コキヤージュ」の一角

 また、かつては週に4日半の営業だった「シャトー・リシュー」のレストラン「ル・コキヤージュ」も、今は年中無休。つまり、彼はずいぶん前から、スタッフの行く末も十分に考えに入れながら、「現役引退」を視野に入れていたと想像がつく。

 「収益率は以前よりも低くなりましたけれど、私自身の時間的、肉体的な労働量も減りましたから、それはむしろ当然でしょう。事業をしている以上、皆の状況を危険にさらすことはできませんが、儲けることにばかり夢中になっていてもねぇ・・・」

 では、ロランジェさん自身の現在の日常はどんなものかと言うと、かつてのサロンと厨房の変わりようが、彼の情熱の推移を示している。

スパイスのブティック「Épices Roellinger(エピス・ロランジェ)」は、かつてのレストランのすぐ隣に位置している

 そこにあるのは、彼が30年来研究を重ね、実際に料理の中でも生かされてきたスパイス。

 かつて様々な食材が調理されていた場所には、120種類ほどの原料が世界中から集められ、彼独自のレシピによって調合され、瓶詰めまでされて製品になる。そのバリエーションは60種類にも上るという。

 「私はもう30年も前から、友人の漁師のこと、牡蠣養殖に携わる人のことを話してきました。そして、彼らを助けるために20年を捧げてきたと言えるでしょう。その助けるとはどういうことか?」

 「それはお金をあげることではなくて、彼らが生産するものを、責任を持って買うことです。今は、香辛料についてそれと同じことをしています」

 「例えば、皆さんがステーキを食べるのに粗びきコショウを振りかける時、肉がどこから来たどんな肉かは気にするけれども、コショウの背景、それが取れる国や摘み取る女性たちのことは思いもしないでしょう」

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