常識を覆すような大業績は存在します。そして、そういうものに限って、既存の問題をよく理解し、それらすべての落とし穴を潜り抜けた、透徹した思考と取り組みで成し遂げられている。

 アルベルト・アインシュタインの相対性理論(はノーベル賞の受賞業績ではありませんが)は、一面大変に常識外れでクレージーにも見える仕事ですが、既存のアプローチの拙劣な点を巧みに回避して、考えに考え尽くされて提出されている「クレージー」にほかなりません。

 思いつきで、何かやってみても、無理なのです。と言うのは、世の中には賢い人はたくさんいて、ちょいと素人が思いつくようなことは、たいがいが先人によって探査され尽くしている。あとにはペンペン草一本生えない、ってな状況になっていることが、普通なんですね。

 これは科学でもそうだし、私たちの芸術の世界でも全く同様です。学生が思いついて何かやって、もし自分が独創的だ、なんて悦に入っていたら、まあ100%不勉強のおかげで幸福な錯覚に陥っているだけで、何十年も前にとっくにやり尽くされたことを、下手になぞっているのが大半です。

 では、どうやってそうした「先人の二番煎じ」を避け、本当にオリジナルな仕事をすることができるのか?

 具体的な詳細は、次回以降記すことにして、ここでは第一に、

 「師匠や先輩との出会い」

 そして

 「問題設定との出合い」

 が決定的に重要、というところを強調しておきましょう。

 「これを解決すれば、間違いなく、つまらない二番煎じなどではなく、独自の業績になりますよ」という、精選された問題が、大学(とりわけ理科系)の研究室で、卒論や修士のテーマとして与えられる課題になっている。

 こういうことの意味を、もっと学生自身が自覚するといいと思うんですね。