2019年6月30日に板門店で行われた北朝鮮と米国の首脳会談(写真:ロイター/アフロ)

 ドナルド・トランプ次期米大統領が就任後、北朝鮮の金正恩総書記と再び首脳会談に臨む可能性がある。

 その先にあるのは、北朝鮮を核保有国と認め軍備管理交渉を進めるという、北朝鮮の望むアプローチしかないのであろうか。

 それは日本にとって最悪のシナリオである。北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威に対する日本の対応については後述する。

 米国における北朝鮮の核兵器保有容認論に関する代表的な意見としては、オバマ政権の国家安全保障担当大統領補佐官だったスーザン・ライス氏の発言がある。

 同氏は、2017年8月中旬のニューヨーク・タイムズへの寄稿論文で「米国は実利的な戦略として北朝鮮の核武装を受け入れ、伝統的な抑止力でそれを抑え、米国自身の防衛力を強めるべきだ」と主張した。

 ライス氏の主張は、北朝鮮は絶対に核兵器を放棄しないという仮定に基づいている。筆者もそう思っている。

 なぜなら、北朝鮮は、米国を中心とする国際社会の圧力で核開発を放棄したイラクのフセイン政権とリビアのカダフィ政権の悲惨な末路を知っているからである。

 特に、リビアとは「反米同志」の関係にあった北朝鮮の金正日・正恩親子はカダフィ大佐の哀れな最期を伝えた映像を見て、どのような教訓を得たのであろうか。

 民主化せず独裁体制を続ければ、最後はこのような悲惨な末路が待っているとの教訓を得たのか、それとも西側に譲歩し、核開発計画の放棄など武装解除すれば命取りになるとの教訓を得たのであろうか。

 北朝鮮が得た教訓は間違いなく後者であった。

 当時、北朝鮮外務省報道官は次のような談話を発表していた。

「リビア核放棄方式とは、安全保証と関係改善という甘い言葉で相手を武装解除させた後、軍事的に襲う侵略方式だということが明らかになった」

「地球上に強い権力と横暴な振る舞いが存在する限り、力があってこそ平和を守護できるという真理が改めて確証された」

 さて、核開発国または核保有国の非核化方式にはリビア方式、イラン方式、ウクライナ方式の3つがある。

 リビア方式は「先に核廃棄のための措置を行ってから、段階的に経済制裁を解除する」、イラン方式は「核活動を10~15年制限してから制裁解除する」、ウクライナ方式は「先に体制保障し、その後核を廃棄する」というものである。

 米国は「リビア方式」を主張するが、北朝鮮は猛反発している。

 イラン方式は、核開発国を対象とするものであるので、北朝鮮には当てはまらない。すると「ウクライナ方式」が残る。

 ウクライナ方式の特徴は「先に体制を保障してから、核を廃棄する」ことである。

 1991年の旧ソ連の解体とともに独立したウクライナの領土内には、1200発以上の核弾頭が残っていた。

 米国やロシア、英国などは1994年12月、「ブダペスト覚書」を通じて、ウクライナが核兵器を放棄し、これをロシアに渡せば、独立・主権・領土を保障するとともに、核兵器の使用を含めた一切の武力行使や脅威を加えないと約束した。

 ウクライナは1994年5月、核兵器不拡散条約(NPT)に加入し、1996年6月、すべての核兵器をロシアに渡して、非核化を完了した。

 しかし、ロシアは2014年3月にウクライナ領土だったクリミア半島を併合し、約束を破った。

 現在のウクライナの人々は「核兵器を放棄すべきではなかった」と思っているであろう。

 しかし、筆者は、北朝鮮を非核化するには「ウクライナ方式」しかないと見ている。

 ただし、すべての種類の核兵器を廃棄すること、およびCVID(complete, verifiable and irreversible dismantlement;完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄)の確実な履行を条件とすることである。

 以下、本稿では温故知新の精神で過去の米朝非核化交渉を振り返ってみたい。

 初めに、第1次トランプ政権以前の米朝非核化交渉について述べ、次に、第1次トランプ政権の米朝非核化交渉について述べる。

 その次に、第1次トランプ政権における米朝首脳会談の概要について述べ、最後に米国による北朝鮮の非核化シナリオと周辺国の核・弾道ミサイルの脅威に対する日本の対応について述べる。