イーロン・マスク氏が所有するSNSのXからリベラル派のユーザーが大量に離脱しているという(写真:AP/アフロ)

米大統領選でトランプ氏が勝利したことを受けて、リベラル派を中心にXからユーザーが「エクソダス(大量離脱)」しているという。オーナーであるイーロン・マスク氏がトランプ氏を支援するために絶大な影響力を発揮し、極右の陰謀論や人種差別的な投稿を野放しにしていることが背景にある。リベラル派の大量離脱でXは「右派のエコーチェンバーに変容する」との指摘もある。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 11月13日、英有力紙の一つガーディアン紙は、SNSプラットフォーム・X上での投稿停止を表明した*1

*1Why the Guardian is no longer posting on X(The Guardian)

 同紙は、Xは極右の陰謀論や人種差別が蔓延する「有害なメディアプラットフォーム」であると指摘。先の米大統領選においてXの有害性が示されたとし、特に所有者であるイーロン・マスク氏がその影響力を駆使してXで政治的言説の形成を可能としたことが、投稿停止を決めた理由だとしている。ただし、Xのユーザーは同紙の記事を引き続き共有でき、記者らは取材目的でXの利用を継続するという。

 ガーディアンはこの表明を「私たちがこれを実現できるのは、(ガーディアンの)ビジネスモデルが、SNS大手の気まぐれなアルゴリズムやバズりのコンテンツに依存せず、読者から直接資金提供を受けているからだ」と締めくくっている。

 言わずもがなであるが、新聞メディアには公共の利益を追求し、公益のために従事する責務がある。ガーディアンは今回、Xが公益を害するという同紙の信条に基づき、使用の停止を表明した。

 大統領選のさなか米ワシントン・ポスト紙が、トランプ氏によるメディアへの「報復」を恐れてか、民主党・ハリス陣営への支持表明をせずに猛批判された姿とは対照的だ。ワシントン・ポスト紙は現在、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が所有している。

 この決定を受け、マスク氏はX上でガーディアンに対して、「下劣なプロパガンダ・マシン」「無意味(なメディア)」などと相変わらず稚拙な反論をしている。ちなみに直近のデータによると、ガーディアンは英国で最も人気のある新聞の一つである。

 マスク氏はこれまでも、取材力の高さに定評のあるガーディアン紙を敵視してきた。2018年、米国証券法違反の疑いで調査を受けていたマスク氏は、オンライン番組の生配信中、大麻を吸ったことで波紋を広げた。そのことを尋ねたガーディアン記者に対し同氏は「ガーディアンは地球上で最も耐え難い新聞」などと噛み付いている。

 欧米の大手メディアがXからの撤退を表明したのは、今回が初めてではない。これまでの動きを整理しておこう。