日本にできる地道な一歩は利上げ
本稿執筆時点の1バレル70ドル強は当初懸念された水準よりも穏当ではある。しかし、年初の55ドル付近と比較すれば+30%近くの上昇と見ることもできる。これだけでも+1兆円近くの輸入金額押し上げが懸念され、日本の抱える約▲2.5兆円(2025年実績)の貿易サービス収支赤字に照らせば、決して小さな額とは言えない。
過去、円安と貿易収支の関係を振り返ると、1973年の変動相場制移行後から今日に至るまで、「決定打は原油価格」というパターンが多かった。
既にみたように、1970年代はオイルショックを奇貨として日本経済は一段と強靭性を身に付け、貿易収支黒字を復元した。しかし、国内生産拠点の空洞化が表面化し、人手不足も社会問題化する今の日本で同様の展開を再現するのは容易ではない。
今回も中東有事に端を発するオイルショックとなるが、1970年代と同じように輸出面で跳ね返す展開は難しいとすれば、少なくとも日銀が現行の利上げ路線を維持しつつ、実質金利水準をプラス圏に引き戻す努力が円安抑制に求められる地道な一歩になろうか。
もちろん、連続的な利上げでは実体経済が持たないという声は出てくると思われるし、実際にその通りかもしれない。しかし、「望まぬ利上げ」を求められるのがいわゆるスタグフレーションという経済状況でもある。
今の日本はその状態にはまっているか、もしくはそれに近い状況に置かれている可能性があるということではないだろうか。現状程度の原油価格上昇で止まることを祈りつつ、まずは異様に低い実質金利の修正を積み上げていくことが重要だろう。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2026年3日3日時点の分析です
2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中


